東京大学は、非対称の棒状分子が全て同じ方向に並んだ極性単結晶薄膜を塗布形成できる有機半導体「pTol-BTBT-Cn」を開発した。
東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の井上悟助教と長谷川達生教授らは2024年1月、非対称の棒状分子が全て同じ方向に並んだ極性単結晶薄膜を塗布形成できる有機半導体「pTol-BTBT-Cn」を開発したと発表した。
研究グループはこれまで、プリンテッドエレクトロニクスの実現に向け、塗布型有機半導体の分子設計と開発および、製膜やデバイス化技術の開発を行ってきた。この中で塗布型有機半導体として、π電子骨格を柔軟なアルキル鎖により非対称に置換した棒状分子が、極めて有効なことを明らかにしてきた。ところが、結晶化する時に、分子が全て反平行な向きに並んだ層同士が、対になって積層する2分子膜型構造となり、単分子層の極性が互いに打ち消しあうという課題があった。
そこで研究グループは、2分子膜型の積層様式を抑制できる、新たな分子構造の有機半導体「pTol-BTBT-Cn」を開発した。π電子骨格である「BTBT」の両端に、「パラトリル(pTol-)基」と「アルキル(-Cn)鎖」を連結した分子構造となっている。
実験では、アルキル鎖の長さ(n=5〜14)が異なる分子を合成し、単結晶X線構造解析を行った。この結果、長さが9と同等かそれ以上のアルキル鎖で置換すれば、棒状分子の向きが層に対して垂直かつ、同じ向きに並んだ極性の単分子層が形成されることを確認した。
これらの分子配列は、アルキル鎖の長さに関係なくほぼ同一であったが、極性は炭素数によって変わることが分かった。アルキル鎖の炭素数が奇数だと2分子膜型の反極性結晶に、偶数だと単分子層が全て同じ向きに積み重なる極性結晶となった。その原因は、単分子層の最表面の形状が、アルキル鎖の炭素数の偶奇により大きく変化するためだという。
開発した有機半導体について研究グループは、ブレードコート法を用い常温・常圧下で作製する塗布膜の薄膜結晶化を検討した。その結果、基材上に厚さ10〜50nm、大きさ数mm角の単結晶薄膜を形成できることが分かった。
さらに、光第二次高調波発生(SHG)を用いて、単結晶薄膜の極性とその分極方向を調べた。単一の単結晶ドメインに、波長800nmのレーザー光を照射したところ、波長400nmの強いSHG光が観測された。その強度は基板の傾斜角が増えると強くなった。このことから、層間方向に自発分極があることを確認できた。
研究グループは、開発した単結晶薄膜を用い電界効果トランジスタを作製した。これにより、極性結晶を与える分子配列構造は、トランジスタ性能を改善するために有効であることが分かった。pTol-BTBT-Cn(n=偶数)と、pTol-BTBT-Cn(n=奇数)からなるトランジスタの特性をそれぞれ調べた。その結果、キャリア移動度は6〜10cm2/Vsであった。スイッチング性能の指標となるSS(サブスレッショルドスイング)値は、n=偶数の極性結晶で100mV/decとなった。これはn=奇数の反極性結晶と比べ、より優れた値だという。
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