東京大学の研究グループは、レーザー励起光電子顕微鏡(Laser-PEEM)を用い、レジストに描画された潜像を極めて高速に検査できる方法を開発した。この方法を用いると半導体製造の露光工程における検査時間を大幅に短縮できる。
東京大学の研究グループは2024年8月、レーザー励起光電子顕微鏡(Laser-PEEM)を用い、レジストに描画された潜像を極めて高速に検査できる方法を開発したと発表した。この方法を用いると半導体製造の露光工程における検査時間を大幅に短縮できる。
最先端半導体の製造工程では、回路の線幅が10nm以下という微細加工技術が導入されている。この中で、微細化のカギを握る工程の1つがEUV(極端紫外線)による露光である。微細化と同時にトランジスタの構造は複雑化している。このため、半導体チップの歩留まりや信頼性を向上させるには、回路パターンに不具合があれば、早い段階で取り除く必要がある。
これまでは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、現像工程後に回路パターンの凹凸形状を検査していた。これに対し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、露光後に形成される潜像を観察する方法も提案されたが、この方法はSEMによる検査に比べ100倍以上も処理時間がかかるという課題があった。
こうした中で東京大学物性研究所は、高解像度のLaser-PEEMを2015年に開発した。露光によるレジストの化学結合について、その変化を敏感に検出し潜像を可視化できる可能性があるという。ただ、解像度が高くなればスループットが低下するという課題があった。そこで今回は、光源に連続波レーザーを用い、測定時間が0.1秒で解像度は2.6nmを達成した。
研究グループは、レジストに500nmの線幅で描画された潜像試料を作製し、Laser-PEEMによる潜像観察の実証実験を行い、描画した潜像パターンを可視化することに成功した。また、現像後のレジストパターンも高いコントラストで観察できたという。
Laser-PEEMによる潜像観察のスループットはAFMの80倍以上、現像後のレジストパターンに対しては、SEMの1.5倍以上となることが分かった。レーザー出力やスポットサイズを最適化すれば、AFMの100万倍以上、SEMの1万倍以上というスループットが実現できることを確認した。
研究グループによると、Laser-PEEMを用いれば半導体製造の検査プロセスを短縮できるだけでなく、従来のリソグラフィ技術開発を大幅に効率化できる新たな方法を提供できる可能性が高いという。
今回の研究成果は、東京大学物性研究所の藤原弘和特任研究員(現在は同大学大学院新領域創成科学研究科特任助教)、バレイユセドリック特任研究員(現在は日立ハイテク)、大川万里生特任研究員、同大学大学院新領域創成科学研究科の谷内敏之特任准教授らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.