産業技術総合研究所(産総研)と物質・材料研究機構(NIMS)は、鉄−マンガン基合金の磁性超薄膜を用いて磁気メモリスタを開発するとともに、これらを使って脳におけるシナプスの機能を模倣することに成功した。脳の機能をハードウェアで模擬する「ブレインモルフィックシステム」への応用に期待する。
産業技術総合研究所(産総研)と物質・材料研究機構(NIMS)は2026年1月、鉄−マンガン基合金の磁性超薄膜を用いて磁気メモリスタを開発するとともに、これらを使って脳におけるシナプスの機能を模倣することに成功したと発表した。脳の機能をハードウェアで模擬する「ブレインモルフィックシステム」への応用に期待する。
磁気トンネル接合(MTJ)素子を利用した磁気メモリテスタは、高速動作と書き換え耐性に優れている。磁気メモリ材料としては、コバルト−鉄−ボロン(Co-Fe-B)合金が実用化されているが、メモリスタ材料として機能させるには、素子を数マイクロメートルレベルの細線状に加工する必要があり、集積化には適していなかったという。
産総研は今回、スピノーダル分解を示す材料「鉄−マンガン基合金」に着目し、磁気メモリスタ素子の開発に取り組んだ。試作した鉄−マンガン基合金のMTJ断面を透過型電子顕微鏡で観察した。熱処理前は、平たんな磁気記憶層の中に、鉄元素が均一に分布していることを確認した。
特定の条件で熱処理した後は、鉄−マンガン基合金がスピノーダル分解し、磁気記憶中に周期的な鉄元素の組成ゆらぎが現れた。しかも、スピノーダル分解の前後で、MTJのミクロな膜構造や結晶構造に変化は生じず、きれいな積層構造を保ったままだという。
開発した磁気記憶層の磁気特性を評価した。スピノーダル分解で磁化が小分けにされた鉄−マンガン基合金は、50mT程度まで磁化の状態が保持された。磁化強度を高めていくと、中間状態を伴いながら緩やかに磁化反転が進むことを確認した。
研究グループは、試作したMTJを直径200nmの円形ピラー素子に加工し、磁気メモリスタでシナプスの機能を模倣した。実験では、磁気メモリスタに同じ極性パルスを連続印加することでコンダクタンスが上昇する「長期増強」と、極性を反転させたパルスを連続印加することでコンダクタンスが減少する「長期抑制」を再現できた。これらは数ナノ秒のパルス幅で制御できるという。
さらに、磁気メモリスタで「スパイクタイミング依存可塑性(STDP)」を再現指した。磁気メモリスタには時間差を変えながら、「のこぎり波状のスパイク」と、「極性が反対のパルス2つつなげたスパイク」を印加した。この結果、2つの時間差が小さいほど、コンダクタンスが大きく変化した。また、時間的な前後関係によって、変化の向きが逆転することを確認した。
今回の研究成果は、産総研ハイブリッド機能集積研究部門の山本竜也主任研究員、野崎隆行研究グループ長、エレクトロニクス・製造領域も湯浅新治上級首席研究員らと、NIMS電子顕微鏡ユニットの埋橋淳主幹エンジニア、磁性・スピントロニクス材料研究センターの大久保忠勝副センター長らによるものだ。
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