富士通研究所が開発したピーク電力削減技術は、複数の蓄電池をいわばバッファとして使うことで、ピーク値を抑制する。電力の需要予測と、蓄電池の充電/放電タイミングの最適制御技術を組み合わせることで実現した。
富士通研究所は、再生可能エネルギーや蓄電池を取り込むことで街全体でエネルギー効率を高める「スマートシティ」を対象にしたピーク電力削減技術を開発した。
同社のオフィスにある40台のノートPCを使って、開発した技術を実証したところ、ピーク電力を10%削減できることを確認したという。今後は、社内の実証実験や、富士通のスマートシティプロジェクト推進室が取り組むスマートシティの実証実験を通して、開発したピーク電力削減技術の実用化を進める。
富士通研究所がピーク電力削減技術を開発した背景は、東日本大震災直後の電力不足にある。東日大震災直後の電力供給力不足をきっかけに、ピーク電力を削減しようという機運が高まっているが、これまでは空調や照明の利用を抑制したり、各消費者それぞれが日々の生活の中で節電するといった「意識的な節電」が必要だった。ただ、今後もピーク電力を削減する取り組みを続けるとき、わざわざ意識する節電では手間が掛かってしまう。そこで同社は、利用者に不便を感じさせることなく、無意識のうちにピーク電力を削減できる仕組みの開発に取り組んだ。
開発したピーク電力削減技術の基本的なアイデアは、スマートシティにおいてビルや家庭などさまざまな場所に配置された蓄電池を使い、使用電力が少ない時間帯に蓄電池を充電し、使用電力が多くなる時間帯には蓄電池から放電することで、電力網から供給される電力を平滑化するというもの。いわば、蓄電池がバッファとなることで、電力網からの電力を過剰に使うことを抑制し、ピーク電力を引き下げる。
基本的なアイデアはシンプルだが、多数の電力利用者がいる状態で、蓄電池への充電または放電を制御する技術的な難易度は高い。例えば、利用者が消費する電力が多いタイミングに蓄電池に充電してしまうと、ピーク電力は減るどころか逆に増えてしまう。さらに、蓄電池の過放電や過充電も防ぐ必要があり、最適なタイミングに蓄電池に充電または放電することが求められる。
そこで富士通研究所は、これらの課題を解決するために2つの新技術を開発した。1つは、スマートシティの特性を考慮した複数パターンの電力需要予測技術。もう1つは、電力利用者の使い勝手を損なわず、ピーク電力を削減するための充放電制御技術である。両者をうまく組み合わせ、電力需要の予測結果に基づき、複数の蓄電池を最適なタイミングで充電または放電させるスケジュールを計画する。計画したスケジュールは、30分ごとにその時々の状況に合わせて更新される。
まず電力需要予測技術については、過去の電力需要のデータを使って、消費電力のピーク値やピーク幅、発生時間ごとに、一日を通した電力需要の変化の傾向(日変化)をあらかじめ幾つかにパターン分けしておく。電力需要を予測するときには、予測日の最新の需要変化と、あらかじめパターン化しておいた日変化をマッチングさせ、複数の需要予測曲線を生成する。
開発した電力需要予測技術の鍵は、日変化パターンAは10%、日変化パターンBは30%、日変化パターンCは60%といったように、複数の需要曲線を確率付きで予測することだ。それぞれの需要曲線に対して、蓄電池の充電/放電スケジュールを計画する。従来は、1つの需要曲線を予測して使うことが多かったが、「今回のような手法を採り、多くのケースに対応した計画を立てることで電力需要予測の困難さを克服した」(同社)。
次に、複数の蓄電池を最適なタイミングで充電または放電させる制御技術は、「最適化問題」を解くことで実現した。最適化問題とは、与えられた制約条件の下で、ある目的関数を最大または最小にする解を求める手法のことである。今回は、目的関数として「ピーク電力の削減率」や、「蓄電池の過充電/過放電を避けること」、「利用者の使い勝手を損ねないこと」、「総消費電力量」といった項目を設定し、これらを満たす制御スケジュールを上記の手法で求めた。
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