アップルが、ヘッドフォンやストリーミング事業を手掛けるBeats Electronicsを買収するとのうわさが流れている。アップルの狙いは、Beats Electronicsの音楽配信サービスだけでなく、ウェアラブル機器市場への本格参入とも読み取れる。
Appleが近く、ヘッドフォンやオンラインの音楽配信サービスを手掛けるBeats Electronicsを、32億米ドルで買収する見通しだと報道された。このニュースに対して、賛否両論が渦巻いている。
「買収額が高すぎる」という意見も多い。しかし、Appleにとって32億米ドルは大した額ではないし、Beats Electronicsにはそれに見合う価値がある。
英国の調査会社であるAnalysys Masonのコンシューマサービスリサーチプラクティス部門のリーダーを務めるMartin Scott氏は、次のように述べる。「Appleは、Beats Electronicsのヘッドフォン事業だけでなくストリーミング事業も買収する。Beats Electronicsへの投資は、Appleにとって意義のあることだ。
ハイエンドヘッドフォンメーカーであるBeats Electronicsの2013年の売上高は15億米ドルに上るとみられる。しかし、Appleはそれ以外にも、Beats Electronicsの持つ強固なブランド力と急成長によって注目を集めるオンライン音楽配信事業を獲得できる。Beats Electronicsの定額制音楽ストリーミングサービス『Beats Music』は、AT&Tの携帯電話サービスメニューにも組み込まれている。Beats Musicは、ミュージシャンを検索エンジンに登録するだけでなく、おすすめの楽曲やプレイリストを紹介する“キュレーター的”な手法を採用している。同サービスをAppleのブランド力と融合することで相乗効果も期待できる」。
Scott氏はさらに、AppleがBeats Electronicsを買収することのもう1つの利点を指摘している。Appleは、ヘッドセットやウェアラブル機器、さらにはヘルスケア分野まで、さまざまな製品の展開を計画している。同社は2014年2月に、健康監視機能を搭載したイヤフォンシステムの特許を取得した。このイヤフォンには、音楽を聴いたり、体温や心拍数、発汗状態などをモニタリングしたりする機能の他、コントローラとしての機能も搭載されるといわれている。
つまり、AppleがBeats Electronicsを買収すれば、音楽配信サービスとウェアラブル機器という、スマートフォンを母体とする2つのコンシューマ市場への足掛かりをつかむことができる。両市場で強固な足場を確立できれば、「iOS」の利用者を増やし、既に強力な同社のエコシステムをさらに拡大できる。
ウェアラブル市場では、モバイルや通信機器を手掛ける企業にも次世代の技術フロンティアとなるチャンスが開かれている。ウェアラブル市場が主流になるには、IoT(モノのインターネット)とLTEが重要になる。ウェアラブル機器の実用化に必要な、高速で応答性に優れた接続を提供する技術だからだ。
ここ数年、スマートウオッチをはじめ、フィットネスやヘルスケア分野で特にウェアラブル機器の普及が進んでいる。スマートフォン市場の創成期のような、新たな市場の始まりの兆しが感じられる。Appleのような企業に必要なのは、ウェアラブル関連の製品や技術を自社のエコシステムに取り込み、常に同市場を意識しておくことだ。
ハードウェアは、市場の成熟が進むとすぐにコモディティ品になってしまう傾向がある。そのため、ソフトウェアやエコシステムが付加価値となる。IBMは、ハードウェアからソフトウェアやサービスに主軸を移した代表的な例だ。Appleはハードウェアを手放すことはないだろう。だとすれば、同社の未来はエコシステムにかかっている。そのエコシステムにおいては、消費者が望む製品を常に提供し続けることが重要である。
Beats Electronicsの買収によってAppleが得られるものは、単に金額的な利益だけではない。モバイル機器やゲーム、フィットネス/ヘルスケアなど、あらゆる分野で中心的存在となるようなエコシステムを構築する上で、大いに価値があるのだ。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.