算木やそろばんの時代を経て、計算機は、歯車を組み込んだ機械式計算機(手回し計算機)の時代へと入っていく。17世紀から20世紀初頭にかけて、機械式計算機は、「より複雑な計算をしたい」という人々のニーズとともに発展した。多くは欧米から誕生したが、日本で機械式計算機の代名詞となったのは「タイガー計算器」である。1920年代から、電卓が普及する1970年までに、およそ50万台が販売された。
近代科学資料館では、タイガー計算器の全ての世代がそろっている(ファンには、たまらないだろう)。
1940年ごろから、リレー式計算機や、真空管方式/トランジスタ方式の電子計算機、つまりコンピュータが開発され始める。コンピュータ時代の幕開けだ。300年以上続いた機械式計算機の時代は終わりを告げ、いよいよ電卓やPCが登場するのである。
近代科学資料館には、日本初の真空管方式商用コンピュータ「UNIVAC 120」が展示されている。
増幅素子としてトランジスタが開発されると、あっという間に真空管に取って替わった。トランジスタを使った方が、コンピュータの消費電力が圧倒的に低かったからである。トランジスタはIC、LSIと進化していった。
1960年代になると、卓上の電子式計算機が登場する。これが電卓だ。世界初の電卓は、イギリスのBell Punchが1962年に発売した「Anita Mark 8」だといわれている。国内では、シャープが1964年に電卓を発売している。Anita Mark 8には一部の演算素子に真空管が使われているが、トランジスタが採用されるようになり、素子の進化とともに電卓は驚異的なスピードで小型化、低消費電力化を遂げていく。そして、世界初の4ビットプロセッサ「4004」(Intel)が、電卓用LSI開発の途中で生まれたのである。
1974年、コンピュータを個人でも使用したいというニーズに応えるように、米国のMITSが「ALTAIR」というコンピュータを発売。ようやく、PCの誕生に至ったのである。
計算機は、単純に数を数えたいという思いから、より複雑な計算や処理をしたいというニーズとともに、石ころからそろばん、機械式計算、電卓、そしてPCへと進化した。次世代のコンピュータとしては、量子コンピュータなどが注目を集めている(関連記事:量子コンピュータの可能性――量子力学のパイオニア・古澤明氏に聞く)。
というわけで、「石ころからリンゴへ」の「リンゴ」は、やはりAppleのことだった。そういえば、半導体チップは「石」と呼ばれることもある。石から始まった計算機の歴史は、偶然にも、半導体という石へとつながっているのだなあ……と思いながら、近代科学資料館を後にした。
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