理化学研究所(理研)の柴田基洋研修生らによる共同研究チームは、ナノサイズの渦状磁気構造体「スキルミオン」の構造が、応力による結晶のひずみで大きく変化することを実験により発見した。高速/省電力を可能とする磁気メモリ素子への応用が期待される。
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター強相関物性研究グループの柴田基洋研修生らによる共同研究チームは2015年7月、ナノサイズの渦状磁気構造体「スキルミオン」の構造が、応力による結晶のひずみで大きく変化することを、実験により発見したことを発表した。論理モデルによる検証にも成功した。高速/省電力の磁気メモリ素子実現に向けてその応用が期待されている。
今回は、理研の柴田氏を始め、理研創発物性科学研究センターの十倉好紀センター長、永長直人副センター長、及び日立製作所中央研究所の谷垣俊明研究員らによる共同研究グループが行った。
スキルミオンは、他の磁気構造体と比べて10万分の1程度の極めて小さい電流で駆動できるという特長がある。この構造体をメモリ素子に活用するためには、構造を外場で制御する方法の開発や制御原理の解明を行う必要があった。
そこで共同研究グループは、温度が変化した時に形状や寸法の変化の違いで生じる熱応力を利用して、冷却時に一軸引張応力を加えられる試料を作製した。この試料を用い一軸引張応力を加えた状態で、ローレンツ透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてスキルミオンの構造を観測した。
研究グループはローレンツTEMにより、それぞれのスキルミオンの形状とスキルミオン結晶の構造を観察し、その構造が応力によってどのように変化するかを調べた。この結果、引張応力が小さい高温の260Kでは三角格子状に整列した円状のスキルミオンが観測され、スキルミオン結晶のひずみはほとんど見られなかった。これに対して、引張応力が大きい低温の95Kでは、試料の橋渡し方向にスキルミオン結晶が20%もひずんでいることを発見した。個々のスキルミオン構造についても同様に、引張応力が大きい95Kでひずみが観察された。
さらに研究チームは、観察されたスキルミオンの構造変化の原因として、通常は強度がどの方向にも等しい「ジャロシンスキー−守谷相互作用」が、『一軸応力の影響によって、各方向に依存して異なる強度を持つように変化したため』と仮定し、その状況に対応する理論モデルを考案した。この理論モデルを用いて、磁気構造シミュレーションと解析計算を行ったところ、実験結果をよく再現する結果が得られたという。
今回の研究成果により、FeGe(鉄とゲルマニウムの化合物)において、スキルミオンやスキルミオン結晶の構造が異方的な応力に対し、極めて敏感で大きくひずむことを明らかにするとともに、スキルミオンを制御するための外場として、応力が有効活用できる可能性を示した。
研究成果は、英国の科学雑誌「Nature Nanotechnology」7月1日号および6月1日付オンライン版に掲載された。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.