NTTは、メカニカル振動子と量子ドットを結合した新しい半導体ハイブリッド素子を作製し、量子効果を用いた超高感度の計測手法を実証した。量子限界に至る極限計測技術の確立を目指す。
NTTは2016年4月、メカニカル振動子と量子ドットを結合した新しい半導体ハイブリッド素子を作製し、量子効果を用いた超高感度の計測手法を実証したと発表した。研究成果は、力や磁気などの極限計測技術を量子限界まで向上させることができる新たな手法として注目されている。
試作した半導体ハイブリッド素子は、量子ドットをメカニカル振動子に組み込むなど新しい構造とした。振動などで生じるひずみによって変化する量子ドットの抵抗値を測定することで、振動子の微細な動きを高い感度で検出することに成功したという。
今回試作したメカニカル振動子の心臓部は、形状が長さ50μm、幅6μm、厚み1μmの板バネである。このメカニカル振動子は極めて軽量であり、熱エネルギーによるランダムな振動(熱振動)が発生する。試作した素子は、量子ドットをメカニカル振動子に組み込むことで、100mKという極めて低い温度における熱振動の検出に成功した。この時の最小検出変位は63fm/Hz0.5で、この数値は水素原子の直径の1000分の1以下だという。
また、量子ドットに印加する電圧を変化させることで、Q値(共振周波数を共振幅で割った値)を増減できることを確認することができた。このことは、振動子の共振特性が、量子ドットに閉じ込められた電子の状態に依存することを示しており、電流による振動の増幅や減衰が可能であることも明らかにした。「量子ドットにより振動の増幅(Q値の向上)を観測できたのは世界でも初めて。電流によるメカニカル振動の増幅(減衰)作用を実証したことになる」と主張する。
今回の研究成果による振動の検出感度は、量子限界(最小エネルギーで振動している振動子の振幅)の約70倍になるという。ただし、検出感度は素子の出力を測定する外部増幅器のノイズに大きく影響されるという。研究チームは、外部増幅器の特性改善と、素子構造のさらなる最適化に取り組むことで、量子限界に至る超高感度計測技術の確立を目指す考えだ。
また、量子ドットによる振動の増幅効果についても、その効率をさらに高めていく。電気的にメカニカル振動の生成が可能となれば、電流印加フォノンレーザーや、単一フォノン発生器などへの応用が期待できるとみている。
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