ここに、私は申し上げたいのです。
―― 「飛び込み」を舐めるな
「飛び込み」は高度に緻密な時刻制御と、高校物理程度の知識と、そして自分の肉体を完璧にコントロールできる運動神経と、なにより「飛び込みを絶対に成功させるんだ」という、鋼鉄の意思があって、初めて成功するものなのです。
無論、うつ病などで、精神のコントロールが困難な方に対して、このような説教に効果がないことは百も承知です。しかし、現代に生きる私たちは、全ての人間が「うつ病予備軍」といっても過言ではありません。
ですから、今のうちに、「飛び込み」は、かなりの確率で、自分の理想したものとは違う形で、しかも相当にぶざまで、苦痛を伴う自殺方法となることを覚えておいていただきたいのです。
それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。
【1】12月1日に、小田急海老名駅での乗客の「ケンカ」が原因で発生した、鉄道遅延の原因を調べ上げて、「列車緊急停止ボタン」が、「飛び込み」と同様に、運行ダイヤの遅延を発生させるものであることを明らかにしました。
【2】今回の「ケンカ」と「飛び込み」のツイッターやブログの書き込みの内容を分析した結果、「飛び込み自殺」よりも、「ケンカ」による遅延を私たちは許すことができないという事実を定量的に確認しました。この事実は、逆に、私たちの社会が「飛び込み自殺」を、社会的に認容し始めていることなのかもしれない、という私の見解についてお話しました。
【3】今回から、本連載の最終フェーズとして、「人身事故物理シミュレーション」を開始しました。飛び込み自殺は、実は、自殺者本人にとっても最悪の選択肢である可能性を提示するためです。
【4】今回は、その中でも最も簡単な「飛び込み自殺のタイミング」についての計算結果を示しました。その結果、飛び込みという自殺を理想的に仕立て上げることはとても難しく、「飛び込み」は高度に緻密な肉体のコントロールと「飛び込みを絶対に成功させるんだ」という、鋼鉄の意思があって、初めて理想的に完結することを示しました。
以上です。
さて、これまで、この私の連載を暖かく見守っていただいた読者の皆さまであっても、次回からは目を背けたくなるような内容になっていくと思います。
このような解析や分析を、誰かがやらなければならないとしたら、多分、それは、誰からも命令されることなく、自発的に「そういうことをやってみよう」と思えることのできる稀有(けう)な人間 ―― つまり、私こそが適任なのだとも思います。
私は今、写真やビデオですら表現できない、おぞましい人身事故現場のリアルタイムのシミュレーション ―― 実際に、1/100秒単位で、車輪が骨を砕き、パーツとなった肉片や、血飛沫が飛び回る ―― を、頭の中にイメージしながら、「エクセル」を使って計算を行っています。
今度こそ、構わないから、江端を(社会的に"も")殺っちゃえ、と、なるかもしれません(覚悟しています)。
さて、2017年の正月休みは、実家で、料理と大掃除と玄関のドアの修理の合間に、このリアルタイムシミュレーションを行うことになりそうです(2016年の正月は、EtherCATのスレーブ用のプログラムを作っていました[連載:EtherCATでホームセキュリティシステムを作る])。
では、これからも、元気よく数字を回してまいります。
来年もよろしくお願い致します。
江端智一
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