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物理シミュレーションで知る「飛び込みコスト」の異常な高さ世界を「数字」で回してみよう(37) 人身事故(3/11 ページ)

» 2016年12月12日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「間違ったボタン」が招いた悲劇

 私も今回調べて初めて知ったのですが、「ホームで人が倒れた」とか「ホームでケンカになっている」といったトラブルを発見した時は、駅員に連絡をするか、または「駅係員呼び出しインターホン」を使わなければならないようです(参考リンク)。

 しかし、人命の危機や電車の事故に発展する可能性の高い、数秒を争うような緊急事態が起こった場合(例えば「ホームから人が転落した」とか「線路上に障害物がある」など)、駅員に連絡をして、判断を求めていては間に合いません。

 このような場合は、「列車非常停止ボタン」を使うことになります。

 このボタンは、2001年に、ホームから線路上に転落した酔客1人および救助を試みた乗客2人が、電車にひかれて死亡するという事故が発生したことから、設置が進められたそうです。

 しかし、今回調べてみたところ、この「列車非常停止ボタン」というのが、実は、相当に厄介な代物だったのです。

 以前、システムの安全性について寄稿したこともある私(参考リンク)は、システムで問題が発生した時の最も単純で確実な解決方法は「何もかも停めてしまう」ことであることを知っています。

 これは、現在まで、鉄道を含むシステムにおいて、事故が発生する度に、さまざまな障害対策が講じられてきましたが、常に、人間の想定を上回る事故が発生してきたことに起因します。

 例えば、「上りの電車の脱線事故が下りの路線を防ぎ、そこに下り電車が突っ込んでくる」事故は想定できても(この事故はあった)、「立体交差している上側の線路が陥没し、電車が落下してきて、下の路線を破壊する」(この事故もあった)などを事前に想定することは難しいのです。

 ならば、"関係あろうがなかろうが、事故が発生した場所から近くにいる電車は全て停めてしまえ"という発想に至るのは、自然な流れです。

 さらに、非常停止ボタンの解除方法が、これまた恐しく面倒くさいのです。上下線全てのホームやレールを、駅員が所定の事項についてチェックするという作業を完了しない限り、非常停止ボタンを解除することができない、というルールになっているからです。

 私、今回、「Googleマップ」で駅の長さを実測したのですが(後述)、駅って、一番短いものでも、往復で500m近くの距離にもなるのです。

 なお、念のために申し上げておきますが、もしあなたが、この「列車非常停止ボタン」を、ふざけて押下したら、威力業務妨害罪(刑法第234条)で、実刑付き懲役判決を食らいます(実際に逮捕の事例があります)。民事上の損害賠償請求なら、訴えられた段階であなたは終わりです。判決のいかんに関わらず、少なくとも、社会的には抹殺されたも同然だからです。

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