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» 2016年12月12日 11時30分 公開

物理シミュレーションで知る「飛び込みコスト」の異常な高さ世界を「数字」で回してみよう(37) 人身事故(7/11 ページ)

[江端智一,EE Times Japan]

「理想的な飛び込み」、それは幻想である

 現時点において、幾つかシミュレーションなどは終了しているのですが、まあ、今回は、物理シミュレーション編の1回目ということもありますので、まずは、中学や高校物理程度の軽いシミュレーションで、読者の皆さんには少しずつ、今後の連載の内容に慣れていただこうかと考えています。

 最初は、「理想的な飛び込み」というものを考えてみたいと思います。

 これは、私の一方的な思い込みなのですが、恐らく、多くの人が持つ「飛び込み」のイメージというのは、落下の途中、電車の正面(運転席から下の辺り)で、電車に横から体当たりされる「空中衝突」だと思います。

 この空中衝突の「飛び込み」のイメージは、アニメ、コミック、ドラマに実に多いのです。空中衝突ができれば、その場で即死。うまくいけば線路の軌道外に弾き飛されて、死体を切り刻まれることなく、比較的きれいな状態のまま、線路上で発見される ――と、そんなイメージを持っている方もいるかと思います。

 で、その落下途中に、スローモーションのように自分の人生の走馬灯が見える、とか思っているかもしれませんが、

はっきり申し上げて、それは幻想です。

 それを、これから簡単な机上シミュレーションで説明しましょう。

 今回は、飛び込み自殺を確実なものとするため、時速100kmで走行する通過電車への飛び込みを試みます(各駅停車の電車への飛び込みの場合、最悪の苦痛を受ける可能性が高くなりますが、これはまた後日)。

 そもそも、駅のホームからレールまでの距離は110cmで、落下時間はわずか0.47秒しかありません。これでは、走馬灯のオープニング画面にすらたどりつけないでしょう。

 また、ここで見落としてはならないのが、「ホームの縁ギリギリに立って、電車がやってくるのを待つ」というやり方が採用できないということです。なぜなら、“その様な人の首根っこをつかんでホーム側に引き倒し、『この電車の後でやれ』と吐き捨てて、電車に乗り込む”、私のような人間がいるからです。

 これを回避するためには、最初はホームの奥の方にいて、電車が来るタイミングを見計らって、歩いて近づかなければなりません。しかし、これも、とても難しいのです。私の試算では、ただ歩いているだけ(時速3km)ではダメで、しかも走っても(時速8km)でもダメです。正確に時速6km(秒速1.66m)で歩かないと、電車の正面にぶつかることが難しいのです。

 しかし、これでもまだ十分ではありません。

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