では、ただ今から、本シリーズの最終フェーズ「人身事故、物理シミュレーション編」を開始したいと思います。
これまで、私は、この連載コラムで、鉄道への飛び込み自殺に関しては
あるいは
くらいしか、打てる手がないと、後ろ向きな見解を申し上げてきました。ですが今、私は第3の道を模索しています。人身事故の物理シミュレーションです。
これまで私は、(当事者の)飛び込み自殺のコストは安いので、飛び込み自殺を完全に封じ込める手段はない、と主張してきました。
しかし、最近、人身事故の机上シミュレーションを具体的に始めてみたところ、飛び込み自殺のコストは安いどころか、めちゃくちゃに高いのではないか、という考え方に変わりつつあります。
具体的に申し上げると、よくドラマやアニメのワンシーンで見られるような“理想的な飛び込み自殺”を実現するためには、相当に周到な準備と訓練と運が必要だということが分かってきたのです。
つまり、飛び込み自殺は、基本的には、びっくりする程「痛く」「苦しい」ものとなり、それだけでは足りず、自分が死んでいく状況を見ながら、絶望的な苦痛の中で死んでいく可能性が高いのです。
今回から、私は、その根拠を机上シミュレーション(可能であればコンピュータシミュレーション)で、それを示していきたいと思います。私のこのシミュレーションによって、自殺を思いとどまっていただき、飛び込みがなくなるのであれば、それが私の本望です。
私は、この人身事故物理シミュレーションを行うに際して、基礎的な検討を開始しました。
ですが、それに必要なデータ(人体の強度や、車両に跳ね飛ばされてしまった時に人体にかかる運動エネルギーなど)が、全く手に入らないという問題に直面しました。
これには心底、困りました。基礎データがないと、人間の体をバラバラに粉砕するシミュレーションができないからです。
そこで、アプローチを変更して、インターネットの画像検索で、事故現場の写真などを集めることにしましたが ―― 生まれて初めて、執筆のための下調べが「つらい」と思いました。嘔吐(おうと)感を抑えながら、資料収集を続けたのです。
しかし、慣れとは怖いもので、1日見ているうちに、
―― そうじゃないんだよ。もっと、こう、肉片が、線路に散らばった感じの写真はないのかなぁ
と、写真にケチを付けられるまでになりました。
つまり、私は、人体に関するデータ収集を諦めて、事故の写真や目撃談を参考にしておおよその物理モデルを構築して、これをシミュレーションに組み込むことにしたのです。
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