デンソーは、トヨタ自動車、豊田中央研究所と共同で開発しているSiCデバイスの開発目標を明らかにした。耐圧1200V/電流容量200AのSiC-MOSFETとSiC-SBDを6インチウエハーで製造することにより、コストを耐圧と電流容量が同じシリコンデバイスの2倍以下に抑えることで、2015年以降に市場投入される次世代EVへの搭載を目指す。
デンソーは、トヨタ自動車、豊田中央研究所と共同で開発しているSiC(シリコンカーバイド)デバイスについて、2015年以降に市場投入される次世代電気自動車(EV)のインバータへの搭載を目指している。「第42回東京モーターショー2011」(一般公開日12月3〜11日、東京ビッグサイト)では、EV向けインバータのパワーデバイスに求められる耐圧1200V/電流容量200Aという特性と、シリコンデバイスに比肩しうるような製造コストの達成に向けた現時点における開発成果が明らかになった。
展示では、直径が3インチと4インチのSiCウエハー、3社で開発中のSiC-MOSFETとSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)を作り込んだSiCウエハー、そしてこれらのSiCデバイスで構成した用いたインバータモジュールを披露した。
SiC-MOSFETは、ゲート部について、一般的なプレーナ構造ではなく、より低いオン抵抗を得やすいトレンチ構造を採用している。これにより、オン抵抗は5mΩcm2以下を確保した。また、耐圧は1200V、電流容量は100Aを達成している。デンソーの開発担当者は、「オン抵抗と耐圧はすでに目標値をクリアしている。電流容量は2010年比で1.5〜2倍に高めたがまだ目標値には達していない。電流容量を200Aにするには、ダイのサイズを展示品の5mm角よりさらいに大きい6〜7mm角にする必要がある。しかし、SiCデバイスの場合、ダイを大型化すると歩留まりや特性が大幅に低下してしまう。この問題を解決する必要があるだろう」と語る。
オン抵抗や電流容量以外では、スイッチング動作時の効率と関連してくるゲート電圧としきい値電圧の改善に注力している。まず、ノーマリーオフのSiC-MOSFETをオン状態にする際に印加する電圧であるゲート電圧については、従来は20〜25Vだったところを15Vまで低減した。また、SiC-MOSFETがオフ状態になる電圧であるしきい値電圧については、トレンチ構造の採用により5〜6Vまで高めている。これは、125℃以上という高温環境下での利用が想定されるEV向けインバータに使用するパワーデバイスの場合、温度上昇とともにしきい値電圧が低下するためだ。「プレーナ構造の場合しきい値電圧は2〜3Vになる。これくらいの値だと、高温環境でしきい値電圧が下がったとき動作に不具合を起こす可能性がある」(同説明員)という。
一方、SiC-SBDについては、耐圧1200V/電流容量200Aという目標値を達成している。展示したSiC-SBDのダイサイズは6mm角である。
3社はSiCウエハーも開発している。すでに4インチウエハーについては、デバイス製造時の歩留まりに直結する微小な表面欠陥を1cm2当たり数百個程度まで低減するなどの成果を発表している。しかし、シリコンデバイスに比肩しうるような製造コストを実現するためには、より面積の大きい6インチのSiCウエハーで量産する必要がある。デンソーの別の説明員は、「6インチのSiCウエハーは現在開発中だ。表面欠陥の少ない6インチウエハーを使って一定以上の歩留まりで製造できれば、SiCデバイスのコストは耐圧と電流容量が同じシリコンデバイスの2倍以内に収まるだろう。このコスト目標は、SiCデバイスの搭載によって実現できるインバータの小型化や高効率化というメリットが、コスト増よるデメリットを上回るラインだと考えている。計画通りに開発が進めば、2015年以降に市場投入される次世代EVに、われわれのSiC-MOSFETとSiC-SBDを用いたインバータが搭載されるだろう」と述べている。
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