今回の説明会では、TIがNational Semiconductorの買収によって新たにユーザーに提供できるようになった価値として、大きく次の3点を挙げた。(1)製品ラインアップの充実、(2)ユーザーの設計サポートといったアプリケーションエンジニアリングの拡大、(3)製品供給体制の強化である。いずれも、National Semiconductorの事業資産を統合することで生まれた「規模のメリット」をユーザーに提供するものだ。
(1)製品ラインアップの充実については、買収以前の3万品種から4万5000品種を超える規模に拡大した。しかも前述の通り、SVA事業体と他の3つの事業体で製品ラインアップの重複は非常に少ない。もともとTIはA-D変換器ICやD-A変換器IC、オペアンプICなどで消費者向けの携帯型機器などに強みがあったのに対し、SVAが手掛けるのは同じ種別のICでもサンプリング速度や分解能が高い品種で、産業機器向けに広く使われていたという。電源向けICでも、従来からTIは比較的低い電圧を扱う用途の品種が多かった一方で、SVAは比較的高い電圧に向けた品種をとりそろえていた。
買収後は、これらをTI単独で供給できるようになった他、TIが別の事業部門で手掛けるマイコンやDSPにSVAの製品を組み合わせて提供することも可能になった。「両社の製品を組み合わせることで、ユーザーが以前よりも設計期間を短縮しつつ、コストと実装面積を削減できるような提案を用意しており、その数は75個を超える」(Lowe氏)。そうした提案の具体例としては、無線制御機能を備えた高天井用のLED照明システムを挙げている。
(2)ユーザーの設計サポートに関しては、TIがアナログ事業部門で抱える営業担当者とアプリケーションエンジニアの数が「最も近い競合他社の3〜4倍」(同氏)と多いと述べ、それによって地理的にユーザーの近くでサポートを提供できるとした。
日本法人である日本テキサス・インスツルメンツの執行役員で営業・技術本部の本部長を務める田口倫彰氏も、国内の状況について、「2011年9月の買収完了後、11月までに旧ナショナル セミコンダクター ジャパンの組織を統合し、同社に所属していたアプリケーションエンジニアを日本TIの全国11カ所の営業拠点に配属済みである」と説明している。
(3)製品供給体制の強化については、ウエハー処理を担う拠点が世界で13カ所、パッケージ組み立てを受け持つ拠点が同7カ所と、生産拠点の規模が拡大したことを挙げた。需要に対して余裕のある生産能力を備えていることから、「ユーザーの供給要求に対応しやすい」(Lowe氏)。さらに、災害発生時などの事業継続性の観点でもメリットがあるという。
「2011年に起こった東日本大震災やタイの大洪水を受けて、全世界のユーザーがTIに製品供給体制のリスク管理について尋ねてくるようになった。当社は旧来から、1つの製品をウエハー処理工場と組み立て工場それぞれ2カ所以上で生産するという、二重調達に取り組んできたが、生産拠点の規模がアナログ半導体の競合他社に比べて大きいので、それを実践しやすいといえる」(田口氏)。
その他に製品供給体制の観点では、買収前からTIが立ち上げを進めており、アナログ半導体の製造工場としては業界で初めて300mmと大口径のウエハーに対応したテキサス州リチャードソンの「RFAB」も同社の強みの1つとして挙げた(参考記事 フォトギャラリー:TIが300mmウエハー対応のアナログ半導体ファブを公開)。
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