東京大学などのグループは、印刷で製造可能な高性能有機薄膜トランジスタ回路を開発し、電子マネーカードなどで用いられる商用周波数(13.56MHz)での個体識別信号の伝送に「世界で初めて成功した」(東京大学)と発表した。
東京大学などのグループは2014年1月27日、印刷で製造可能な高性能有機薄膜トランジスタ回路を開発し、電子マネーカードなどで用いられる商用周波数(13.56MHz)での個体識別信号の伝送に「世界で初めて成功した」(東京大学新領域創成科学研究科物質系専攻 教授の竹谷純一氏)と発表した。今後、実用化に向けた開発を進め2020年ごろには、1個当たり10円を切る低価格なRFID用半導体デバイスが実現できる見込みだという。なお、この研究開発は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の戦略的省エネルギー技術革新プログラムとして実施されているもの。
有機半導体は、シリコンなどの現在の半導体デバイス製造に用いられる無機半導体に比べ、製造が容易で、薄く、軽量で曲げられるといった特長を持つ。特に、製造は、塗布法や印刷法を使って比較的低温な環境で行えるため、膨大な製造設備を必要とする無機半導体に比べ製造コストを大幅に削減できる。その一方で、有機半導体は性能面で無機半導体に大きく劣り、半導体デバイス材料としての応用はほとんどない状態だ。
東京大学の竹谷氏らのグループでは、より高性能な有機半導体材料を開発、使用して、一定の性能で低価格なデバイスが強く求められているRFID向けのデバイスの開発を実施し、このほど、商用周波数(13.56MHz)での個体識別信号の伝送に成功した。
用いた有機半導体材料は、東京大学とチッソから事業を継承した材料メーカーのJNC、装置メーカーのリガクが共同で開発した「アルキルDNBDT」。「従来の有機半導体材料のキャリア移動度は、高くても1cm/Vsだったが、開発したアルキルDNBDTは10cm2/Vsと10倍程度高いキャリア移動度を達成した」(竹谷氏)。10cm/Vsというキャリア移動度は、多結晶シリコンと同等で、10MHz以上の高周波応答に対応できる値だ。
今回、このアルキルDNBDTを、新たに開発した塗布・印刷法「塗布結晶化法」を用いて、有機単結晶ウエハー化することに成功。「有機半導体が乾く速度と同じ速度で有機半導体の溶液を塗布することで、有機半導体分子が規則正しく配列する膜を簡単に作製できた。単結晶のため、多数の同じ特性のトランジスタを作製できる」(竹谷氏)とする。有機単結晶ウエハーのサイズは現状、10×10cm程度だが、「いずれA4程度のサイズまで大型化できる」との見通しを示す。
そして、この単結晶のアルキルDNBDTウエハーに対し、有機半導体にダメージを与えないリソグラフィーを用いたパターニング法で、2個のトランジスタを組み合わせたRFID通信用整流素子を作製。さらに、トッパンフォームズが開発した低コストのアンテナと直結させ、13.56MHzのRFID信号の伝送に成功。竹谷氏は、「異なる周波数の発振回路を用いることにより、個体識別機能も実証した」としている。
東京大学などのグループでは、現状、数個程度にとどまっている識別個体数を大幅に増やすため本格的な有機半導体論理回路の開発を進め、2015年に実用に向けたプロトタイプデバイスを作製し、2018年にも事業化する方針。竹谷氏は、「有機半導体の利点を生かし、温度センサー機能なども集積し、無機半導体よりも多機能で、価格は10分の1以下のRFID用デバイスを実現する」としている。
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