NHK放送技術研究所は、「NHK技研公開2013」において8インチのフレキシブル有機ELディスプレイを展示した。大きく引き伸ばせば、持ち運びが簡単な80インチ超の8Kディスプレイを実現できる可能性もあるという。その他、目が不自由な人向けにピエゾ素子を利用した“ディスプレイ”などを提案した。
NHK放送技術研究所は、「NHK技研公開2013」において8インチのフレキシブル有機ELディスプレイを展示した。解像度は640×480画素(VGA)。担当者は、「今回展示したのは8インチの試作品だが、これをそのまま80インチくらいに引き伸ばせば、スーパーハイビジョン(8K)のディスプレイを実現できる」と述べる。
今回展示したフレキシブル有機ELディスプレイの大きな特徴は、低消費電力かつ長寿命のリン光有機EL素子と、高速駆動を実現する酸化物TFTを採用している点だ。
NHKは2012年9月に、30.3lm/W(ルーメン/ワット)の最大電力効率と、1万5000時間の連続駆動寿命を実現した赤色のリン光有機EL素子を発表していて、今回のディスプレイにも同素子を使用している(関連記事:有機EL長寿命化の鍵となるか、NHKが赤色発光材料を開発)。
また、シリコンTFTではなく、酸化物半導体(IGZO)*1)TFTを試作して、それを用いた。IGZO TFTはシリコンTFTよりも電子移動度が高く、画素数が多いディスプレイに必要な高速駆動を実現できるからだ。
*1)In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)の酸化物である。
担当者によれば、「4K、8Kの解像度が普及すれば、80インチ超の大型ディスプレイのニーズが増えるとみている。このくらいディスプレイが巨大になると、持ち運びや設置の面で、くるくると巻けるフレキシブルディスプレイが圧倒的に有利になるはずだ」という。「ただし、フィルム基板を使用しているため、製造するときに約200℃までしか温度を上げられない。耐熱性が大きな課題」と付け加えた。
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新たな視聴体験として、テレビとタブレット端末を連携し、テレビ番組のコンテンツの一部をタブレット端末に表示させるシステムを提案した。
テレビ画面をタブレット端末のカメラ越しに視聴すると、番組に連動して作成したCG(コンピュータグラフィックス)のコンテンツが、タブレット端末の画面の方に映し出されるというもの。例えば、犬のキャラクターがテレビ画面から飛び出して、タブレット端末の画面に飛び込んでくるように見せる、といったイメージを再現することができる。このシステムを利用するには、専用のアプリをタブレット端末にインストールしておく必要がある。
説明員は、「ドラマなどの一般的なテレビ番組をタブレット端末越しに見ることはまずないと思うが、広告やゲームの分野で面白いサービスを提供できるのではないか。用途を探っていきたい」と話した。
目が不自由な人向けとして、振動を指で感じられる「触覚ディスプレー」を展示した。電圧をかけると振動するピエゾ素子を一面に並べたもの。
説明員は、「地図の代わりに使うといった用途を想定している。例えば、病院やスーパーマーケット、警察署などの場所が振動するように設定しておけば、各施設の位置関係を指で触って感覚的に把握することができる」と述べる。「点字のディスプレイ版と言えば、イメージしやすいかもしれない。点字はリアルタイムで情報を更新することができないが、このディスプレイならそれが可能だ。特に災害発生時は、危険な場所や避難場所などの情報をすぐに更新できるため、役に立つのではないか」(説明員)。
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