産業技術総合研究所は、インフルエンザウイルスを検出できる小型高感度センサーの開発に成功したと発表した。従来1日半以上を要したウイルス検出時間を数十秒レベルに短縮でき、将来は空気中のウイルス検知も可能になるという。
産業技術総合研究所(以下、産総研)は2013年8月21日、インフルエンザウイルスを検出できる小型高感度センサーの開発に成功したと発表した。従来、1日半程度必要だった検出にかかる時間を数十秒レベルに短縮でき、感染力の強い新型インフルエンザウイルスの世界的流行(パンデミック)を抑えることに貢献する可能性がある。
新型インフルエンザは、人に免疫がないため、その感染力、毒性が強ければ、多くの人に感染し、死に陥れる可能性がある。過去にも、新型インフルエンザが原因で数千万人が死亡に至るなどの事例もあり、新型インフルエンザへの対応は世界的な課題でもある。新型インフルエンザの流行を抑えるためには、早期に感染を見つけ出し、治療を行う必要がある。しかし、現在は、新型インフルエンザウイルスを検出するのに時間がかかっているのが、現状だ。
現在、最も早くインフルエンザウイルスを検出する方法に、口腔(こうくう)などを拭って採取した被検体に試薬を溶解して検出する「イムノクロマトグラフィ」という検査方法があり、広く病院などで用いられる。しかし、この検査は、「簡易検査」と位置付けられ、判定率が低い。検査自体は、短時間だが、感度が低く、ウイルス数の少ない感染直後では、感染の有無が検出できないという欠点がある。産総研によると、感染から1.5日(36時間)程度経過しなければ、感染の有無を判別できないという。一方で、「タミフル」などのオセルタミビルやザナミビルといったインフルエンザ治療薬は、感染から48時間以内に投薬しなければ、効果がないとされる。そのため、「タミフル」などを処方できるのは、感染36時間後から48時間後までのわずか12時間に限られ、徹底した治療が難しい状況になっている。
高精度の確定検査も存在するが、大規模な装置が必要で、検体の移動時間や前処理などに1.5日以上の時間がかかり、早期の感染検出には至っていない。
そこで、産総研では、感染直後のウイルス数が少ない状態でも、ウイルスを短時間に検出でき、一般的な病院や空港などでも利用可能なサイズのセンサー装置を開発した。
開発したセンサー装置は、検体にシアル酸や金ナノ粒子を加えて光を当て、ウイルスの有無で変化する光の波長や反射率(透過率)を導波モードセンサーで検出し、感染有無を判別するというもの。あるウイルスにだけ付着する種類のシアル酸と金ナノ粒子を加えることで、そのウイルスの有無が検出できる。シアル酸の種類を変えることで、さまざまなウイルスの検出が行えるという。
試作したセンサー装置で実施したA型のインフルエンザウイルス「H3N2 Udorn」の検出感度試験では、従来の簡易検査方法であるイムノクロマトグラフィよりも2桁少ないウイルス数でも検出できる高い感度を実現したという。測定時間は30分で、検出に数時間から1日の時間を要する確定検査方法(ELISAなど)と「同じ水準の感度を達成できた」という。
試作した装置は、30×20×10cm程度のサイズ。装置を開発したシーアンドアイによると、「近日中に、プロトタイプ機の販売を開始したい」とし、既に実用化段階に達している。同社ではその後、装置の改良やコストダウンを進め、装置価格50万円程度、検体などを滴下する使い捨ての検査チップを2000円程度という価格で、2016年に正式な製品として販売したい」とした。
今回の技術開発を行った産総研電子光技術研究部門副研究部門長の粟津浩一氏は、「この技術をベースに今後、空気中のインフルエンザウイルスを検出できる技術などを開発し、鶏小屋などでのインフルエンザ監視システムやより簡易的な携帯型インフルエンザ検出装置、インフルエンザ検出機能付きエアコンを実現したい」とした。
開発したセンサーは、インフルエンザウイルス以外にも、C型肝炎など他のウイルス検査や、鉛やカドミウムといった重金属の検出も行え、医療関連用途以外にも、工場などで溶液濃度チェックなどにも応用できる。
なお、今回の技術開発は、日本産業の技術力強化に向けた新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業の一環で、大学などの国内研究機関に所属する有望な40歳未満の若手研究者に対する研究助成「産業技術研究助成事業(通称:若手研究グラント)」として実施された。
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