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「スマホ」と「パルス電波」で視覚障がい者の歩行支援、富士通などが開発無線通信技術 UWB

情報通信研究機構と富士通が開発した「視覚障がい者歩行支援システム」は、屋内や地下であっても位置情報を取得し、目的地までの方向や距離をナビゲーションできる。「Impulse Radio型UWB」と呼ぶ無線技術を使って実現した。

» 2012年07月03日 08時00分 公開
[EE Times Japan]

 情報通信研究機構(NICT)と富士通は、UWB(Ultra Wide Band)測位システムとスマートフォンを組み合わせた「視覚障がい者歩行支援システム」を開発したと発表した。一般的な測位システムとして広く使われているGPSを使い、位置情報を得ることが難しい屋内や地下においても、リアルタイムに位置情報を取得し、目的の場所までの距離や方向を音声で案内することが可能だという。

 NICTがUWB測位システムの開発を担当し、富士通がスマートフォン用の専用アプリケーションソフトウェアを開発した。2012年7月5〜6日にパシフィコ横浜で開催される「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2012」で、試作した歩行支援システムのデモを披露する予定である。

図 情報通信研究機構と富士通が開発した「視覚障がい者歩行支援システム」のイメージ図

Impulse Radio型UWBで位置を取得

 今回開発した歩行支援システムは、時間分解能の高い信号波形(パルス信号)を空間に放射する「Impulse Radio型UWB(IR-UWB)技術」を使って実現した。まず、屋内や地下のある領域に、あらかじめパルス信号を放射する基地局を複数設置しておく。その上で、歩行者の専用端末(移動局)を使って、各基地局から到来したパルス信号を受信/信号処理すれば、各基地局と移動局間の距離を知ることができる(これが「測距」)。その後、各基地局との測距情報を組み合わせて、移動局の位置座標を推定する仕組みである。

 移動局の位置座標は、歩行者が移動局とともに所持しているスマートフォンに送られ、スマートフォンの専用アプリケーションによって目的地までの方向や距離のナビゲーションが実行される。

 GPSが苦手とする屋内や地下において位置情報を取得する技術には、主に今回紹介したIR-UWB技術による測距と、屋内GPS(IMES)がある(関連記事その1その2)。ただ、いずれの方法も、基準信号を放射する基地局(またはIMES送信機)を、あらかじめ幾つも設置しておく必要があり、インフラ整備に必要なコストが実用化に向けた課題である。

UWBが生きる用途は、レーダー/測距!?

 なお、UWB技術とは、広い周波数帯域幅にわたって電力を拡散させ、通信や測距を行う無線通信技術である。世界各国で、UWBに割り当てられている周波数帯は2つあり、それぞれUWBローバンド(3.1G〜4.8GHz)とUWBハイバンド(6.0G〜10.6GHz)と呼ばれている*1)。2002〜2007年にかけて、UWB技術は「革新的な技術」、「夢の無線技術」と広く注目され、この技術を使って高速通信を実現しようという試みが民生分野で活発化したが、市場は立ち上がらなかった*2)。現在では、高速通信というよりも、レーダーや測距の実現手法として、UWB技術の研究開発が進められている(関連記事ロシア発ベンチャーが挑む防災/救助支援、UWB技術を最大限生かす)。

*1)ただし日本国内で割り当てられている周波数は、UWBローバンドが3.4G〜4.8GHz、UWBハイバンドが7.25G〜10.25 GHzである。

*2)UWB技術の詳細や歴史経緯は、「UWBとは何だったのか」と題したブログエントリーに詳しくまとめられている。

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