半導体回路技術で世界の企業・研究機関がトップ性能を競う国際会議「ISSCC」。2013年3月に開催される「ISSCC 2013」の概要が明らかになった。日本は国・地域別の論文採択数で米国に次ぐ第2位に返り咲いた。日本からの採択論文の内容を見ると、先端領域の研究開発で“脱・民生アプリケーション”を探る傾向がある。
半導体集積回路技術の国際会議「ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)」は、2012年11月19日に東京都内で記者会見を開催し、2013年2月17〜21日に米カリフォルニア州サンフランシスコで開催する「ISSCC 2013」の概要を発表した。さらに同日(米国時間)、事前プログラム(Advance Program)もWebサイトで公開した(PDFファイル)。
ISSCCは、「半導体集積回路技術の分野で最も権威ある国際学会」(ISSCC 2013のFar East Chairを務める東京大学 大規模集積システム設計教育研究センターの池田誠氏)であり、今回で第60回目の節目を迎える。アナログやミックスドシグナル、無線/有線通信、高性能デジタル、メモリ、イメージセンサーといった10前後の分野それぞれにおいて、世界の企業や研究機関がトップの性能を競うことや、毎年、世界の地域別の採択論文数が話題になることなどから、「半導体のオリンピックとも呼ばれている」(ISSCC委員)。
ISSCC 2013の投稿論文数は629件と、前回(ISSCC 2012)の628件と変わらない。採択論文数も209件で前回の202件とほぼ同じである。採択率は33.2%で、前回の32.2%と同水準を維持しており、「論文の質を保っている」(ISSCC Far East Vice Chairで岡山県立大学 情報工学部情報システム工学科の教授を務める有本和民氏)。
地域別の採択論文数は、アジア地域(Far East)の企業や研究機関を筆頭著者とする論文が84件で全体の40%を占め首位に立った。アジア地域は前回、73件(全体の36%)の採択論文を出し、ISSCCの発足以来ずっと首位を堅持してきた米州(Americas、実質的には北米)を逆転しており、今回はその勢いをさらに拡大した形である(参考記事:「ある意味、事件だ」 ―― “半導体のオリンピック”でアジア勢がアメリカを逆転)。今回は米州が74件(36%)で、前回の68件(34%)から微増しており、その分、欧州が51件(24%)で前回の61件(30%)から減らしている。
このアジア勢の拡大に特に貢献したのは日本である。国・地域別の採択論文数で30件を記録し、米国の73件に次ぐ第2位につけた。前回は米国が65件、韓国が30件、日本が25件という順番で、日本は第3位に転落していたが、今回は定位置に返り咲いた。
「日本の半導体産業は今、事業運営の観点では苦境にあり、ISSCCの採択論文数で見ても一時、企業の力は低下していた。しかし、“次”に向けた研究開発は進んでおり、国家プロジェクトや産学連携のプロジェクトで取り組んだ研究開発の成果が見えてきたところだ。日本からの採択論文数が今後も増えていくのを期待したい」(有本氏)。
日本からの採択論文である30件の内容を見ると、「その応用分野が、これまで日本の企業が強かった消費者向け民生機器から他の分野へと、シフトし始めている。企業は“次”の事業領域を探っており、これからは今回の成果をいかに事業化するかというステップに進んでいく」(有本氏)という。
具体的には、クラウドコンピューティングの普及でデータ伝送速度の向上が急務になっている基幹系システムを想定した有線通信技術や、ビッグデータ時代のセンサーネットワークに向けた有線/無線通信技術、それらを高いエネルギー効率で実装するために不可欠な自律的なエネルギー制御技術などを有本氏は挙げている。
例えば有線通信技術の領域では、富士通研究所がバックプレーン伝送用に28nm世代のCMOS技術で製造した32Gビット/秒の受信チップを発表(講演番号は2.5)する他、日立製作所がボード間の光インタフェースの受信部に向けて65nm世代のCMOS技術を適用し、25〜28Gビット/秒対応の高感度TIA(トランスインピーダンスアンプ)を4チャネル作り込んだチップを発表(講演番号は7.2)する。
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