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検証 ルネサス再建〜2013年上半期〜ビジネスニュース 企業動向

2013年も半分を終えようとした6月27日、ルネサス エレクトロニクスは、モバイル事業からの撤退という大きな決断を下した。2010年4月に誕生した「新生・ルネサス」の象徴として中核事業へと育てるはずだったモバイル事業。結局、売却先が見つからぬまま、再建に向けた構造改革を優先した。株式市場はモバイル事業撤退を好意的に受け止めたようで発表翌日のルネサスの株価は反発した。果たして、ルネサス再建のメドは付いたのか。2013年前半のルネサスを振り返る。

» 2013年06月28日 17時00分 公開
[竹本達哉EE Times Japan]

 安倍政権誕生による円安是正、国内景気回復への期待が満ちあふれた2013年年明け。ルネサスの年明けも、少なくとも2012年より明るい中で迎えた。発足以来、続く赤字で、大幅な構造改革をするにも、先立つ資金がないという状態にあったが、2012年12月に、官民ファンドの産業革新機構を軸に、トヨタ自動車、日産自動車、デンソー、ケーヒン、パナソニックなど計9社から総額1500億円の出資を得ることが決定(関連記事)。資金調達のメドも立ち、再建に向けた構造改革を加速させる状況が整った。

 構造改革は、年初の1月から進んだ。2012年10月に実施した7500人規模のリストラに続き、2013年9月末に実施する3000〜4000人規模の追加リストラを発表した。追加リストラが実施されれば、工場再編などに伴う人員減も含め2010年4月の発足時約4万2000人だった従業員数が、約2万7000人規模まで減少することになる。なお、2013年3月期の人件費は、前年度比で15%減少した。「発足当初よりも40%程度削減した」(現社長の鶴丸哲哉氏)ものの、さらに人件費の圧縮を見込んでいる。

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 1月30日には、後工程工場3工場の売却が決定した。2012年7月に発表していた後工程工場9拠点を1〜3拠点に削減するという工場再編を予定通り実施したもの。この売却により計4拠点の売却が決定した他、2拠点は閉鎖される予定。ほぼ、後工程拠点の再編はメドが付いたといえる。

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 2月に入ると、再建に向けた動きが一層、加速する。2月8日の2013年3月期第3四半期決算会見(関連記事)で、「経営陣の進退については、今後出資を仰ぐ産業革新機構を中心とする株主が決定することなので、私からは何も答えられない。しかし、私個人としては、(業績低迷に対する)経営責任を感じている」と述べた社長の赤尾泰氏ら経営陣の退陣を2月22日に発表。この2月22日は、産業革新機構など9社に対する第三者割当の実施が臨時株主総会で承認された日であり、ルネサスの再出発を印象づけた。

 会社発足から陣頭指揮を執ってきた赤尾氏に代わって、新社長に就任したのは、震災発生時に生産本部長を務めていた鶴丸氏だ。製造畑を歩んできた鶴丸氏は、震災で大きな被害が生じた那珂工場をはじめとした工場復旧に貢献したことなどが評価された。なお、鶴丸氏は、赤尾氏と同じく日立製作所出身だ。

 同時に執行役員を16人から8人に半減させるとともに、7つあった事業本部を4つに集約する組織のスリム化も決定し、3月1日付けで実施した。鶴丸氏は、「より広いスパンで考えることができ、迅速な判断が行えるようにした」と組織再編の狙いを説明した。

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 そして、3月12日には、子会社ルネサス モバイルが展開するモバイル機器向けSoC事業の方向性を見直すと発表した。これ以前から、赤字続きのSoC事業では「車載向けと産業機器向けに重点を置く」とし、採算性の悪いSoC製品は、売却、撤退する方向性を打ち出していた中での発表。加えて、2月に富士通とパナソニックのシステムLSI事業統合の発表(関連記事)もあったため「ルネサス モバイルもいよいよ合流か」との憶測を呼んだ。

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 矢継ぎ早に改革が進んだ1〜3月に対し、4〜5月は停滞感がどことなく漂った。

株主総会翌日の決断

 5月9日の2013年3月期決算発表では1676億円という巨額の最終損失を計上したものの、当初から2012年10月末のリストラ費用などの特別損失(1271億円)が見込まれていたため、大きな驚きはなかった。それ以上に、決算発表会見では、新経営陣として挑む新年度の事業戦略、経営再建策に注目が集まったが、鶴丸氏は、「(出資予定の)産業革新機構と協議を進めながら、策定している中期事業計画が決まっていないため、将来のことは答えられない」との姿勢を貫き、具体的な策を明かさなかった。中期事業計画の発表時についても「産業革新機構などの払い込みが完了してから」と弁明した。

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 そして、5月28日には、6月26日に開催される株主総会を前に、役員人事を発表。旧経営陣の取締役退任とともに、第三者割当増資により筆頭株主となる産業革新機構から、総会前日までに出資金の払い込みが完了することを前提に、2人の取締役と1人の監査役を受け入れることを明かした。

 だが、産業革新機構など9社からの払い込みは完了しないまま、6月26日の株主総会を迎えた。鶴丸氏は株主からの質問に対し、これから株主となる産業革新機構と協議を進めながら策定している中期事業計画が定まっていないことを理由に、新たな再建策を話すことはなかった。

関連記事:ルネサス、産革機構などからの払い込み完了せぬまま株主総会を実施

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 そして、株主総会翌日である6月27日。総会で選任された前オムロン会長で会長兼最高経営責任者(CEO)の作田久男氏が参加した取締役会で「モバイル事業撤退」の決定が下された。

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 モバイル事業は、発足当初から経営再建という課題を突き付きられたルネサスにあって、成長に向けた数少ない攻めの投資を行った事業だ。発足間もない2010年7月に、当時携帯電話機最大手のNokiaの無線モデム事業を約180億円で買収することで合意。同年11月に買収が完了し、2011年1月に買収した事業部門を中心に子会社ルネサス モバイルを発足させた。

 しかし、買収合意からルネサス モバイル発足までの半年間も含め、携帯電話機市場は大きく変化。スマートフォンが急速に普及し、頼りのNokiaの携帯電話機事業は急速に低迷。そして、スマートフォンの波に乗ることなく、450億円の累積損失を残して撤退する。

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 鶴丸氏が株主に「モバイルSoC事業は、売却などいろいろな方向性を検討している」と説明した翌日の売却断念、事業清算の決定。あらかじめ方向性は決まっていたのだろうか、それとも新CEOの作田氏の経営手腕が発揮されたのであろうか。いずれにしろ、ルネサスの構造改革は、再び、動き出した。

 モバイル事業からの撤退で、懸案のSoC事業は、車載、産業機器向けと一部の民生、情報機器向けに用途分野が絞られ、収益改善への道筋はつきつつある。残るは、SoCの生産拠点の山形鶴岡工場300mmウエハーラインを売却できるかどうかだろう。2012年7月発表の再編計画では、「1年をメドに売却」としていたが、まだ、売却決定の発表はない。

 遅くとも2013年9月末までに産業革新機構などの出資が完了し、新たな中期事業計画が発表されるだろう。構造改革を早く終えて、モバイル事業の反省を踏まえた成長に向けた攻めの戦略が打ち出されることを期待したい。

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