ARMは、big.LITTLE処理の優位性を示す資料として、目下のライバルであるIntelのx86アーキテクチャベースのプロセッサ「Atom Z2580」を搭載したレノボのスマホ「K900」と、Cortex-A7ベースのプロセッサを搭載したTCLのスマホ「idol」の性能比較結果を明示した。
この資料を見る限り、big.LITTLE処理では、省電力コアとなるCortex-A7だけでも、Atom Z2580とほぼ同等の処理性能を実現している。さらに、特筆すべきは、その処理性能を「Atom Z2580」よりも、半分程度の消費電力で達成している。Cortex-A7だけでなく、Cortex-A15を加えたbig.LITTLE処理構成のプロセッサであれば、ユーザーが感じる処理性能は、これよりも向上するだろう。先に紹介した動画でのCortex-A15の動作割合を考えれば、消費電力もさほど向上しないように想像される。ARMのプロセッサ部門マーケティングプログラム担当ディレクターのイアン・スマイス氏は、「big.LITTLE処理は、ピーク性能とエネルギー効率を両立するもの。他社は、パフォーマンスだけを追求するが、ARMは適材適所のCPUコアIPがあり、適したアーキテクチャで処理し、性能と省電力を両立できる」とする。
ARMはこれまで多数のCPUコアIPを開発、展開してきた。消費電力がマイクロワットクラスのマイコン向けCPUコア「Cortex-Mシリーズ」から、10Wクラスの64ビットCPUコアまでが存在し、ARMのCPUコアは、小さなセンサーデバイスから、家電、スマホ、そしてサーバまであらゆる電子機器に搭載されるまでに至った。「われわれは幅広いIPをそろえてきたが、『この用途にはこのIPを使え』といった指示を出したことはない。(ライセンスを受ける)パートナーがIPを選択し、さまざまな用途でイノベーションを起こしてきた結果、ARMコアの用途が拡大した。われわれは“適材適所”を実現するIPをそろえるだけ」と語る。そしてbig.LITTLE処理も、「処理に応じて、最適なコアを用意したもの」とし、これまでは用途/機器単位に応じた多数のコアを用意してきた延長として、機器内部の処理単位レベルで最適化したコアの提供方法として位置付ける。
処理レベルでの最適なコアの提供は、big.LITTLE処理にとどまらない。それがGPUコアのMaliだ。スマホなどで要求されるグラフィックス処理性能は急速に高くなっているだけでなく、画像認識など並列処理が有効なタスクをGPUで行う必要性も増している。処理内容に応じた適材適所のコア提供を行う上で、GPUコアの提供は不可欠だ。
ARMは、2007年に「Mali-200」を発表して以降、積極的にGPU分野の展開を進めてきた。その結果、Android端末を中心に採用数が拡大しているという。2008年に発表したMali 400シリーズを中心に、Maliシリーズの出荷数は、2011年5000万個、2012年1億5000万個と順調に伸び、2013年も「3.5億〜4億個の出荷を計画し、とても好調な状況」(ARMメディアプロセッシング部門パートナーマーケティングVPのデニス・ラウディック氏)という。
Maliシリーズでは、「高解像度の画像表示だけでなく、画像処理や画像認識といった汎用的な処理性能も追求している」(ラウディック氏)とし、CPUコアの負荷を下げ、システムとしての性能を高め、消費電力を抑制できる点をアピールする。
会見では、Cortex-A7とCortex-A15が各4個のbig.LITTLE処理構成のCPUに、Maliを組み合わせたシステムで、画像に複数のフィルタリング処理を行った動画を紹介し、Maliによって向上する処理速度と、省電力性能を強調。スマイス氏「ARMは、big.LITTLE処理とMaliで、ヘテロジニアスマルチコア(異種混在マルチコア)をリードしていく」とした。
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