Intelは、中国Tsinghua UniGroupに15億米ドルを投じることを明らかにした。何としても自国の半導体産業を発展させたい中国と、中国でモバイル機器関連のビジネスを拡大したいIntelの思惑が合致したのである。
中国政府による国内半導体産業拡大の取り組みが、突如として成果を出し始めている。Intelが最大90億人民元(約15億米ドルに相当)を投じ、Tsinghua UniGroup傘下の半導体企業の株式を約20%獲得する計画が明らかになったためだ。中国政府系の未公開株式(プライベート・エクイティ)投資会社であるTsinghua UniGroupは、半導体設計を手掛ける中国企業のSpreadtrum CommunicationsとRDA Microelectronicsを管理している。
中国は財力を駆使して世界半導体市場に進出している。早い段階でIntelを引き入れたことにより、あらゆることをゼロから行い、半導体企業と真っ向勝負に出るよりもずっと速く、中国は世界的展開を進められる。
Intelは“中国の目標”に便乗する形で、スマートフォンやタブレット端末を所有していない消費者が何百万人もいる巨大な未開拓市場に、同社の技術やチップが浸透するよう狙う。
この動きはIntelによる“天才的発想”と見なすことができる。同社は、中国が独自のモバイル力を構築できるようサポートする考えだ。例えば、中国のOEMやホワイトボックスベンダーが、SpreadtrumやRDAなど、Qualcommに代わる選択肢を得られるようにしていく。
中国は、Intelのどこを刺激すればよいのかを正確に分かっているようだ。Intelは、中国はもとより、世界の他の国々でも成長しなくてはならない上に、モバイル市場において「Intel Architecture」の促進を後押しする協力者を必要としている。中国なら、このようなIntelの要望を両方とも満たすことができる。
Intelは2014年9月25日(米国時間)、「IntelとTsinghua Unigroupは一連の協定に署名した」と発表した。協定では、Intel Architectureや携帯電話機向けの通信技術を共同開発することで、中国や世界各国におけるIntelベースのモバイル機器の製品提供と採用を拡大することになっている。
Spreadtrumが独自のARMベースのモバイルチップから撤退し、Intelのx86ベースのソリューションにシフトすることはなさそうだが、Intelから、x86ベースの製品群をラインアップに追加するよう促されるのは確実だろう。
Intelは「Spreadtrumは今後、Intel ArchitectureベースのSoC(System on Chip)のファミリを共同で生産、販売する予定だ。初期製品はIntel ArchitectureベースのSoCとなる見込みで、両社から2015年後半に発売される予定だ」と述べた。
今回のIntelとTsinghua Unigroupの“協定”は、複数のレベルで影響を及ぼしている。
“Qualcommに代わる選択肢”は、Intelと取引することを決断したTsinghua Unigroupにとって、重要な概念である。
モバイルチップの世界市場を席巻するQualcommは、中国で約1年にわたり、特許のライセンス供与やチップセットの価格設定の方法について調査してきた。
報道によると、中国政府は、中国においてICの生産と消費の差が広がることを懸念しているという(関連記事:半導体市場、2014年以降は緩やかに成長――IC Insightsが予測まとめ)。中国のホワイトボックス・ベンダーは、QualcommやMediaTekといった企業が開発したチップを用いてスマートフォンやタブレット端末を大量に生産しているため、中国政府は中国のチップ設計企業やファウンドリには成長の余地がほとんどないとみている。こうした懸念の解決を後押しできるのがIntelだ。
中国独自の半導体産業を発展させるという直近の国家的優先課題は、過去の優先課題とは極めて異なるものである。
報道によると、6000億人民元(約980億米ドルに相当)もの大金が、M&A活動の促進費用として、中国の地方自治体と各地域の未公開株式投資会社に流れるという。これは、国内IC産業の支援に向けた政府資金とは別の資金である。
半導体産業に詳しい筋によると、同産業の発展に向けた国家的な青写真は極めて「市場主導」であるという。IntelとTsinghua Unigroupの協定は、そうした市場主導の動きの要求を正しく満たしているといえる。
ARMが中国のみならず世界各地のモバイル分野で成功しているのは間違いない。これまでIntelには、かすかな成功の見込みすらほとんどなかった。
だが、事実上あらゆる企業がARMベースのアプリケーションプロセッサを手掛ける中国において、多すぎる類似品に悩む企業にとっては、Intelは新鮮な風を吹き込むきっかけになりそうだ。
Jon Peddie ResearchのプレジデントであるJon Peddie氏は、EE Timesに対し、Spreadtrumはそもそもスマートフォンビジネスにおける無線チップのサプライヤであったと語った。Peddie氏によると、MediaTekに挑戦するというグローバルな野心にもかかわらず、「Spreadtrumの最善策は他社に追随してARMの顧客になることだった」という。さらにPeddie氏は「Intelのアーキテクチャと技術的サポートにより、Spreadtrumは第一線に浮上し、QualcommやMediaTekなどアプリケーションプロセッサ企業と互角に勝負できるようになる」と述べた。
長い目で見れば、今回の協定締結によりIntelは台湾のTSMCや上海のSemiconductor Manufacturing International Corporation(SMIC)からファウンドリビジネスの一部を奪うチャンスを得る。
現時点では、IntelとTsinghua Unigroupによる「一連の協定」に、ファウンドリ関連の取引が含まれているか明らかにされていない。だが、Intelのファウンドリへの野望を踏まえると、Intelが早期に中国のファブレス企業を引き込み始めたのは理にかなうことかもしれない。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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