ここまで、“ASML Investor Day”で発表されたスライドを用いて、今後15年以上にわたって半導体の微細化が続くであろうことを示してきた。そして、このような途切れることのない微細化により、1パッケージ当たりの計算速度が2年で16倍になる「新ムーアの法則」が実現することになるのだろう。
ここで、再び、世界半導体市場の将来予測を行う。筆者は、拙著記事『史上最悪レベルの半導体不況に回復の兆し、生成AIという新たな“けん引役”も』(2023年9月8日)で、世界半導体市場がおおむね10年で2倍の割合で成長していることを示した(図12)
この「10年で2倍」の経験則を適用すれば、未来の世界半導体市場が簡単に予測できる。2022〜2024年に約6000億米ドルだった世界半導体市場は、10年後の2032年に2倍の1兆2000億米ドルになる。その10年後の2042年に2倍の2兆4000億ドルになり、さらにその10年後の2052年後には2倍の4兆8000億米ドルになる(図13)
筆者は、このような半導体市場予測において、20年以上も先のはるか遠い未来の2045年にシンギュラリティがくるものだと思い込んでいた。ところが、冒頭で紹介した通り、カーツワイル氏は、16年も前倒しして2029年までにシンギュラリティがくるというのである。これはやはり、何度考えても筆者にとっては衝撃的である。
その一方で、「シンギュラリティはもう既に来ているのではないか?」という思いが頭をよぎる。その第1の兆候が、図4で示したように、パッケージ当りの計算速度が2010年代の「2年で2倍」から、2020年代に「2年で16倍」へと急増していることである。また第2の兆候が、ChatGPTに代表される生成AIの高機能化と普及である。
筆者は、映画『ターミネーター』に出てくる軍事用コンピュータ「スカイネット」が自我を持ち、「マシンがマイクロセカンドで人類を敵とみなして核攻撃を行う」というように、シンギュラリティとは突然訪れるものだと漠然と考えていた。
しかし実際のシンギュラリティとはそういうものではなく、ChatGPTが世界中に普及していき、多くの人々がこのような生成AIを利用し、依存するようになる、というようにじわじわと人類(の頭脳に)浸透していくようなものではないのだろうか? このように考えれば、もう既にシンギュラリティは来ていると言えるのではないだろうか?
この原稿を書くに当たって、筆者はかなり生成AIを使っている。少なくとも筆者には、シンギュラリティが来ているのかもしれない(筆者はAIに原稿を書かされているのか?)。読者諸賢の皆さんはいかがでしょうか?
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1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。
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