富士通研究所はデッドタイム損失と、スイッチング損失の両方に対策を施したサーバ向け電源を試作した(図3)。容量2.3kWの大容量電源*1)であり、変換効率は世界最高となる94.8%を達成したと主張する(図4)。
*1) 富士通によれば、例えば64個のCPU(256コア)を内蔵するUNIXサーバ「SPARC Enterprise M9000」の消費電力は40.4kW、36個のCPU(128コア)を搭載するブレードサーバ「PRIMERGY BX900」の消費電力は12.9kWであるという。これらの電力をまかなうには、試作した電源を複数組み合わせて使う必要がある。
同社はどのように高効率を実現したのだろうか。デッドタイム損失に対してはデジタル制御技術を利用して改善し、スイッチング損失対策としては、外部にエネルギー再利用回路を追加した。
FETの動作は、流す電流の大きさによって変わる。大電流ではスイッチの速度が高まり、小電流では遅くなる。安全を見込んで小電流時のFETの速度に切り替えタイミングを合わせると、大電流を流したときにデッドタイムが長くなってしまう。かといって、大電流に合わせ込むと、小電流時に短絡が起きる。サーバ用の電源は常に負荷が変化するため、安全を見込んでデッドタイムを長くとる必要がある。
なんらかの手法でデッドタイムを短くできないだろうか。同社の対策は電流値をリアルタイムに測定して、FETのオフ期間を常に最短に制御することだ(図5)。一種のソフトスイッチング技術である。これでデッドタイム損失を抑えることができた。「オフ期間は100ns〜1μs程度の長さだ。サーバが搭載するボードからの消費電流の変動(電源から見た負荷変動)に応答するには、数ms以内でスイッチングのタイミングを変えることができればよい。マイコンを搭載し、あらかじめ登録した値テーブルを参照することで、高速応答を実現した」(富士通研究所ITシステム研究所サーバテクロノジ研究部の米澤遊氏)。
スイッチング損失を抑える手法は一種のエネルギーハーベスティング技術ともいえるだろう。スイッチオフ時にFET内部にたまった電荷を回収する回路を新規開発し、損失を抑えた(図6)*2)。「FETの低い抵抗値はそのままに、スイッチング損失を大幅に低減できている」(米澤氏)。つまりFETの抵抗損失とスイッチング損失を同時に低減することに成功したことになる。新回路はFETやトランスなどのディスクリート部品で構成し、もともとのFETと同程度の面積に実装できたという。
*2) 英ブリストル市で2012年3月27〜29日に開催された学会「Power Electronics Machines & Drives Conference 2012」で発表した。
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