そして、もう1つ昨今の売り上げ成長を支えている製品が、モールドタイプのパワーインダクタだ。モールドタイプのインダクタは、従来の巻き線タイプよりも、高精度、高効率が得やすい特長を持つ。「巻き線タイプからよりローコストな積層タイプへの流れとともに、巻き線タイプよりも高性能なモールドタイプにシフトする流れも強まり、“2極化”が進んでいる。当社は、PC向けに長くモールドタイプインダクタを供給してきた実績があり、モールドタイプに関してはシェア上位の競合メーカーを『超えた』と言い切れる製品が提供できている」と胸を張る。
「現行の独自メタル系材料を用いたHEI(High Efficiency Inductor)シリーズでは、2012サイズ(2.0×1.2mm)でも、競合他社の2016サイズ(2.0×1.6mm)品と遜色ない効率を達成している」という。さらに、この2014年下期からは、ナノレベルの粒子を用いた新独自メタル材料を用いたUHEI(Ultra HEI)シリーズという新世代品を投入し、さらに優位性を強める。
順調にビジネス規模を広げ、競争力のある製品投入を続けるチリシンだが、日本市場に限っては、まだまだビジネスは小さい。日本での本格的なビジネスは、東京エレクトロンデバイスと販売代理店契約を結んだ2013年1月からであり、まだ1年あまり。売り上げ規模も、全社売り上げの数%程度にとどまる。
日本は、追いかけるシェア上位メーカーの地元である上、チリシンの得意とする民生機器市場が低調であり、厳しい環境にある。しかし、鐘氏は、「日本が強い産業機器、車載機器市場も、巻き線タイプから、積層タイプとモールドタイプへと2極化しながらシフトしつつある状況。そこにわれわれのビジネスチャンスがある」とみる。
そして、日本の車載機器/産業機器市場への参入を目指し、準備も進めてきた。10年以上前から北米の車載情報機器メーカーに製品を納入してきた実績をベースに、3年ほど前から車載向けビジネスへの本格参入に向けた取り組みを展開。自動車産業向け陣質マネジメントシステム規格「ISO/TS16949」を取得した他、「AEC-Q200」準拠の製品ラインアップも順次強化してきた。
日本での本格ビジネス開始から1年あまりだが、既に車載情報機器向けでいくつかのデザインインを獲得するなど好調な滑り出しをみせている。鐘氏は、「日本の車載市場は高い水準の品質を要求されるが、欧米、台湾/中国、韓国の各地で品質要求に応え、実績を残してきたわけであり、日本でもできないはずはないと自信を持っている。3年後には、全社売上高の20%を日本で売り上げたい。かなり高い目標かもしれないが、不可能ではないと思っている」と、日本でのビジネス拡大に自信をのぞかせた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.