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「失敗が約束された地」への希望なき出発……海外出張は攻撃的に準備する「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(12)(5/5 ページ)

» 2013年01月15日 07時00分 公開
[江端智一,EE Times Japan]
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現地で必ず病気になります

<トラブル事例>

 海外出張の前は、普通、徹夜が何日も続くような資料作成などの事前準備が続いて、疲労しきっています。

加えて、

  • 「肉プレス機」の隙間に十数時間挟まれ続け、
  • 太陽が変な時間に出ている環境にさらされ、
  • ヘドが出るほどしんどい体調で、
  • しゃべれない言語を駆使してミーティングを実施し、
  • 現地の人間だけが楽しんでいる歓迎会に「笑顔」で対応し続け、

さらに、

  • 時差ボケで夜は眠れない、

という状況が加わるのです。

 これほど完璧な拷問、そうそう経験できるものではありません。多分、農作業に使われている牛や馬だって、これほど働かされてはいないでしょう。「私は前世で、大量の人をあやめた罰を、今世で受けているのかもしれない」と本気で思えてきます。これで病気にならないヤツは、多分、「本気で仕事していない」のだと思います。

<準備しておくこと>

写真はイメージです

 残念ですが、睡眠時間を可能な限り確保することくらいしか手がありません。

 私の場合は、まずホテルの周りにあるコンビニを見つけて、ビールを大量(6本くらい)に購入します。時差ボケで夜中に目が覚めたら、間髪を入れずに一気飲みします。2回、3回と目が覚めたら、ビールの本数が2本、3本と増えていくだけのことです。比較的危険性の低い精神安定剤をビールで流し込む、ということも、たまにやります(まねしないでくださいね)。

 分かっています。こんなことをやりながら仕事をするヤツに、明るい老後があろうはずがありません。きっと、いつかどこかでひどい報いを受けるはずです。しかし、仕事というのは、「命を削って銭を稼ぐ」といえる面があるのも、残念ですが事実なのです。

海外出張とは、「失敗が約束された地」への希望なき出発である

 なんだか今回は、私のトラブルの話ばかりで、皆さん食傷気味かもしれませんね。

 しかし、「海外出張とはこんなにも怖いものなのか」と思っていただけたとしたら、それは私の本意です。

 繰り返します。

 海外においては、

(1)誰も信じてはならず、何も信じてはならない
(2)どこにいようと、何をしてようと、必ずトラブルに遭遇する
(3)遭遇したトラブルを完璧にリカバー(回復)する手段はない

ことを、肝に命じておいてください。

 「英語に愛されないエンジニア」にとって、海外出張とは「魅惑の世界」への希望に満ちた出発ではありません。「乳と蜜の流れる約束の地(旧約聖書)」どころか、未開の危険地帯、凶暴な野獣が生息するジャングル、無政府状態の銃撃地区であり、「失敗が約束された地」への希望なき出発である、と覚悟を決めてください。

 このような場所でのトラブルを、人間らしい取り扱いを受け得るレベルのトラブルにとどめること――。これが、「英語に愛されないエンジニア」に特化した「攻撃的かつ戦略的な海外出張準備」の目的です。


 さて、海外出張において、入念な準備が大切だということは、十分にご理解いただけたかと思います。ですが、残念なことに、完璧には回避できないのがトラブルというもの。そこで、後編では、トラブルに遭遇した時の“初動方針”についてお話します。

 それでは、次回お会いしましょう。


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Profile

江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



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