富士通セミコンダクターは、グラフィックスSoCなどを展開する映像ソリューション事業の売上高を今後3年で倍増させる。差異化要素に開発リソースを集中し開発効率を高め、利益が伴う成長を目指す。
富士通セミコンダクター(富士通セミコン)は2013年5月16日、グラフィックスSoCの新製品発表(関連記事:「サイドミラーレス自動車も実現可能」、富士通セミコンが高性能グラフィックスSoCを製品化)に合わせて、映像ソリューション事業のビジネス戦略を明らかにした。自動車のダッシュボードのグラフィックス表示化に伴う車載向けビジネスの拡大を背景に、2015年度(2016年3月期)の同事業売上高をに2012年度比約2倍の200億円以上に引き上げる。
富士通セミコンの映像ソリューション事業は、グラフィックスSoCの他、デコーダ/トランスコーダLSI、インタフェースブリッジSoCなどを展開している。現状の売上高は、約100億円という。
主力の車載用グラフィックスSoCでは、「われわれ独自の価値提案ができており、独自世界を開いている」(映像ソリューション事業部長の脇本康裕氏)という。特に「自由に視点を変えられる全周囲立体モニタシステムに対応したLSIを製品化しているのは、当社だけであり、シェア100%」とハイエンド領域での強さを強調する。
今後の事業拡大に向けても、「画像入力から処理、表示出力までの強力なプラットフォームを生み出し、強みにしていく。そしてプラットフォーム上に独自のソリューションを構築し、独自価値を提供していく」と、これまでの事業姿勢を貫いていく。
今後3年で売上げ倍増という意欲的な目標設定の背景には、グラフィックスSoCの主力用途である自動車分野でのディスプレイ搭載点数の増加、ディスプレイの高精細化という追い風が吹く市場環境がある。車載ディスプレイは、センターコンソールだけでなく、ヘッドアップディスプレイが加わり、ダッシュボード部も機械式メーターからディスプレイによるグラフィック表示に変わろうとしている。これら複数のディスプレイに対応するには、高性能なグラフィックスSoCが必要になるため、ハイエンドに強い富士通セミコンはビジネス拡大の好機にある。実際、「これから市場が形成されるグラフィックス表示のダッシュボード向けでは、少なくとも50%以上の世界シェアを確保する」(脇本氏)と、車載ディスプレイの普及拡大の恩恵の大きな部分を奪う構えだ。
絶好の追い風が吹く一方で、乗り越えなければならない課題もある。それは、安定した利益を生み出すことだ。映像ソリューション事業としての利益性は明らかではないが、映像ソリューション事業を含む富士通セミコンのSoC/システムLSI事業部門は、利益面で苦戦を続けてきた。ご存じのように、2013年2月にはSoC/システムLSI事業部門をパナソニックの同事業部門と統合することで基本合意に至る(関連記事)など、抜本的な改革を実行しようとしている段階にある。
映像ソリューション事業としても、より利益を確保しやすい体制作りを急いでいるようで、今回発表した新しいグラフィックスSoCにも、その姿勢がうかがえる。これまで、グラフィックスSoCの肝であるグラフィックスエンジンは、富士通セミコンが独自に開発したオリジナルエンジンを搭載してきた。しかし、新製品では組み込み用グラフィックスエンジン最大手のImagination Technologiesのエンジンに切り替えた。グラフィックスエンジンの開発費用は決して小さくなく、外部調達で開発費は抑制される。
脇本氏はImagination Technologiesのエンジンを採用した理由として「グラフィックスエンジンは標準化が進んでいて、エンジン以外の部分で差異化すべきと判断した」とし、全周囲立体モニタシステムなどソフト面での差異化による勝算があって、開発費は抑えられるものの差異化要因が薄まる恐れのあるグラフィックスエンジンの外部調達に踏み切った。「プラットフォーム上に独自のソリューションを構築し、独自価値を提供していく」という事業戦略を実践し、利益ある成長を遂げようとしている。
富士通セミコンは、SoC/システムLSI事業と対をなす主力事業であるマイコン事業の売却(関連記事)を決めた。以前は車載用マイコンと同一組織で事業展開していた車載用グラフィックスSoC事業への影響も懸念されるが、脇本氏は「2012年から別の組織となっており、(マイコン事業売却による)影響はない」とした。
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