Intelは、組み込み用SoC「Quark」を発表した。x86ベースの64ビットCPUを有し、従来の組み込み用SoC「Atom」に比べて、サイズは5分1、消費電力は10分の1だという。64ビットのアドレス空間の大きさを武器に、32ビットマイコン市場を脅かす可能性もある。
空調大手ダイキン工業傘下のDaikin McQuay(ダイキン マッケイ)は、米国ミネソタ州ミネアポリスにある同社本社の 屋上に設置した暖房、換気、および空調(HVAC:Heating, Ventilation, and Air Conditioning )システムに、Intelが史上最小とうたう新型SoC「Quark」を搭載している。このシステムが順調に作動すれば、Daikin McQuayはQuarkを数百万個単位で購入する可能性がある――。
Intelは、2013年9月10〜12日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催した「Intel Developer Forum 2013」(以下、IDF)で、Quarkを発表した。ただし、Quarkの技術的な仕様や発売時期などの詳細は明らかにしていない。Quarkは、単なる新製品や新戦略というよりも、急速に発展するモノのインターネット(IoT:Internet of Things)市場の拡大に対応して、急ぎ上げられた観測気球的な意味合いが強い。
IntelのCEO(最高経営責任者)のBrian Krzanic氏は、同氏が初めて行った基調講演を終えた後、「Quarkはx86互換で、32nmプロセス技術を適用している」と話した。
Krzanic氏は基調講演で、「QuarkはAtomの5分の1のサイズで、消費電力は10分の1だ。論理合成可能な(シンセサイザブル)コアで、サードパーティのシリコンブロックを集積することも可能だ」と説明した。
サードパーティのシリコンブロックを集積できるが、Quarkコア自体のカスタマイズはしない方針だという。ただし、「一部の顧客向けにQuarkコアをマイナーチェンジする可能性もある」とKrzanic氏は付け加えた。
空調システム大手のDaikin McQuayは、Quarkチップを搭載し、Wi-Fiと3G機能に対応した業務用リファレンスボードをこのほど入手したという。同社でオペレーション部門のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるKevin Facinelli氏は、サンフランシスコのIDF会場から、ミネアポリスにあるこのリファレンスボードボードに接続し、リファレンスボードが動作することを実証した。
Facinelli氏は、「Quarkの採用を決断するまでに、Freescale Semiconductor製品やARMコアベースのチップも検討した」ことを明かした。
Daikin McQuayは、Quarkを選んだ理由として、「他社のチップとの性能の違いではない。高いセキュリティを確保しながら、リモートメンテナンスを行いたかったからだ」と述べている。
Intelは、セキュリティソフトウェアではARMより優位にある。Quarkのリファレンスボードは、Wind River Systemsの実績ある組み込み向けOS「VxWorks」をセキュリティソフトウェア「McAfee」で補完した組み込みシステムスタックを搭載する。Intelは、組み込みシステム市場への投入に向けて、1年以上をかけて用意を進めてきた。
Intelは、「Quark」をオープンアーキテクチャにすると発表した。ただし、その時期や手法、製品リリースなどに関する詳細は明らかにしていない。
ベテランのプロセッサ市場アナリストであるPeter Glaskowsky氏は、「Quarkは、現在特許権が消滅しているx86の旧式アーキテクチャ『386』の可能性がある。だから、Intelは、潔くオープン化に踏み切ったとみられる」と述べている。
Quarkは、業界最小となる64ビット版x86プロセッサだ。このためIntelは、将来的にあらゆる製品が64ビット対応になっていくことを明示した形となる。Appleが、同じ日に行った発表の中で、「今後iPhoneは、64ビットのアドレス指定能力を備えていく。(2013年9月10日に発表した)最新機種『iPhone 5s』の64ビット対応プロセッサ『A7』は、ネイティブカーネルとソフトウェアスタックを用意する」と述べていることからも、説得力のある議論だといえる。
IntelのQuarkは、64ビット対応を実現することにより、ARMのマイコン用32ビットCPUコア「Cortex Mシリーズ」だけでなく、Microchip Technologyやルネサス エレクトロニクスなどさまざまな企業が独自に開発した多彩なアーキテクチャに対して、差別化を図ることが可能になる。このため、IntelとAppleの両社は今後、確固たる地位を築いているARMに対し、64ビットのアドレス指定能力を活用することで競争力を高めていくだろう。
Glaskowsky氏によると、「64ビットのアドレス空間によって、性能を高めることが可能だ。32ビットで対応可能な4Gバイトのメインメモリを超えなくても、性能向上を実現できる。アーキテクチャの幅が広がれば、4Gバイトの制限を超えることなく通信性能やビデオ処理性能を高められる」という。
ただ、こうした筋書きの中で、Intelにとって1つの懸念事項となるのが、AMDが64ビット版x86に関する特別な特許を保有しているのかどうかという点だ。AMDが先駆けて「Opteron」プロセッサのアーキテクチャを開発したのに続き、Intelがプロセッサを発表して対抗している。
IntelのCEOであるBrian Krzanich氏は、「Intelは過去20年間にわたり、Quarkのように、多様化する数々のSoCに対応すべく取り組んできた。これにより、工場のスループットタイムを60%以上削減することに成功した」と述べている。
Quarkは現在、過剰に宣伝されている感がある。既に確立されているマイコン市場を脅かす存在になれるのか、また、Intelがこのような多品種少量のファウンドリ事業に対応できるのか、まだ明確な答えは出ていない。
【翻訳:滝本麻貴/田中留美、編集:EE Times Japan】
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