引き続き登壇したDobkin氏は、アナログ設計に対する心構えなどを紹介した。まず、アナログ技術とデジタル技術の違いを述べた。「デジタル技術は数値が重要であり、途中のプロセスはさほど重要ではない。これに対して、アナログ技術は現実の社会に直結しており、最終の数値に至る全ての過程が重要となる。アナログデータはその精度や安定性といったパラメータも大切だ」と話す。つまり、「アナログ回路設計では、どのような結果を出力したいかによって、正しい回路を選択しなければならない」というわけだ。
しかし、完成度の高いアナログ回路設計を行うことは容易ではない。それではどのようにしてアナログ回路設計の知識を深めていけばいいのか。Dobkin氏によれば、「アナログ回路設計の技術を習得するのは語学学習と同じである。5年間も外国語の翻訳を手掛けていると、そのうち辞書が必要なくなるだろう」という。「アナログ回路を理解するのに5年はかかるが、それを乗り越えるとアナログ回路を分析し、その回路で何が起こっているかが理解できるようになる。そうすれば、アナログ設計もできるようになる」というのがDobkin氏の見解だ。
大学でもアナログ設計の基本は教えてくれる。しかし、大学で設計したアナログ回路は25℃の環境で動作すればいいが、「実用レベルになると−55〜125℃など幅広い動作温度範囲に対応していなければ使い物にはならない」という。このような課題はアナログ設計の経験者と一緒に仕事を行うことで設計技術を学ぶことができる。図書館で古い書物を読むことも大切だという。古い書物ではトランジスタレベルの回路図を確認することができるからだ。「半導体メーカーに情報を提供してもらうことでもアナログICについての理解を深めることができる」とも述べた。
アナログ設計において、その出発点がホワイトボードにあることも紹介した。「まず何を設計したいのか、その設計図(アーキテクチャ)をホワイトボードに書き込む。それを会社の設計者らが眺める。そしてアーキテクチャが正しいかどうかを確認し議論する。設計の第1ステップは正しいアーキテクチャに仕上げることだ。これをベースとして、よりすぐれた製品を開発していこうという気持ちが大切である。詳細設計に着手するのは、正しいアーキテクチャの開発が完了してからでいい」というのがDobkin氏の持論である。
アナログ回路設計の場合、ICチップを製造した後で特性をテストし、要求された性能に仕上げるためトリミングなどを行う。レイアウト設計を行う際は、温度依存性の高い回路とパワートランジスタ部をチップのダイ上で十分な距離をとるなどして熱対策に配慮しなければならない。レイアウト設計やICチップの評価には、「チップベンダーなどが提供するシミュレーションツールやデモボードの活用も有効である」と話す。
ここでDobkin氏も、受講者に質問した。それはベアチップでは正常に動作していたものが、プラスチックパッケージに収めると期待するデータが得られないというもの。パッケージに起因するICチップの不具合をベアチップでテストし、その特定と対策方法を見いだす問題である。
最後にDobkin氏は、「アナログ技術者は芸術家である。それはシリコンウエハーをキャンパスとして、その上に絵を描くからである」と語り、講演を終了した。
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