米国の研究所が、ウイルスを利用した発電技術を開発した。実証実験では、小型の液晶ディスプレイを動作させることに成功したという。
米エネルギー省(DoE:Department of Energy)のローレンスバークレー国立研究所の研究チームは、生きているウイルスを遺伝子操作して圧電性を持たせる方法を発見した。このウイルスは人体には無害で、機械的なエネルギーを電気に変換する役割を果たす。自己組織化によってウイルスアレイを形成すれば、小型の電子デバイスを動作させるのに十分な電力を生成できるという。
実証実験では、小型の液晶ディスプレイを動作させることに成功しており、その様子を捉えた動画をWebサイトで公開している。
同研究チームは、この圧電デバイスの応用として、ウォーキングなどの日常的な動作からエネルギーを生成し、電池を使わずにモバイル機器を動作させるといった用途を想定する。紙のように薄い発電機構を靴の底に埋め込んでおき、ウォーキングの最中にそこで作り出した電気で携帯電話機を充電するといった将来の利用シーンを描いている。
このウイルスは、厳密にはバクテリオファージに分類されるもので、サイズは長さが880nmで直径が6.6nmである。電荷を持ったタンパク質でウイルスを覆うことで、圧電性を作り出した。さらに、このウイルスの一端に負の電荷を持ったアミノ酸を付加することで、もう一端との電位差が十分にある電気的な極を発生させておく。この状態でウイルスに機械的な変位が加わると、電気回路の駆動に使用可能な電力を生成できるという仕組みだ。
実験では、ウイルスを植え付けた材料を20枚の層にして、液晶ディスプレイを動作させるのに必要な電力を発生させた。金めっきを施した電極の間に、ウイルスを植え付けた1cm2の圧電薄膜を挟んで発電機構とし、それを指でたたくと、400mVの電圧で約6nAの電流が発生したという。
同研究チームは、生きたウイルスを利用するこの発電技術を、将来的には、「定常的に振動するあらゆるデバイスに実装できるようにしたい」と語っている。ウイルスの自己組織化を利用して、任意の領域に発電ウイルスを成長させる技術の確立を目指す。なお、今回の研究は、ローレンスバークレー国立研究所のSeung-Wuk Lee教授と、研究員のRamamoorthy Ramesh氏およびByung Yang Lee氏が実施した。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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