Power Integrationsは、30年にわたり電力変換技術を手掛けている。同社の技術に目を付けたクアルコムは提携を申し入れ、クアルコムのUSB高速充電技術に対応する充電用ICが開発された。モバイル機器市場に注力してきたPower Integrationsにとって、スマートフォン市場での地位を向上させるきっかけとなりそうだ。
米国カリフォルニア州サンノゼに拠点を置くPower Integrationsは、1985年の設立以来、30年近くにわたってAC-DCスイッチングレギュレータICをはじめとする電力変換技術を手掛けてきた。
同社がターゲットとする市場はモバイル機器、PC、テレビなどの家電、LED照明と幅広いが、中でもモバイル機器は同社にとって重要な分野だ。同社マーケティングディレクタのPeter Rogerson氏によると、モバイル機器向け製品の売上高が全体の約4割を占める時期もあったという。
その同社にとって、2013年10月に大きな動きがあった。スマートフォン向けプロセッサ市場で圧倒的なシェアを占めるクアルコムと提携し、クアルコムの急速充電技術「Quick Charge 2.0」に対応する充電用ICの開発を発表したことだ。
Quick Charge*)はモバイル機器向けの急速充電技術。Quick Charge 2.0が2013年2月20日(米国時間)に発表されている。クアルコムのプロセッサ「Snapdragon 800」に搭載され、AC-DC充電器と組み合わせることで、既存のUSB充電器に比べて最大75%高速に充電が可能だという。一例として、従来は7時間以上かかるタブレット端末の充電が、Quick Charge 2.0によって3時間以下で完了するとしている。なお、Quick Charge 2.0は、2014年前半に利用可能になる予定だ。
Power Integrationsが開発したのは、充電用IC「ChiPhy」ファミリの「CHY100」だ。同社のAC-DCスイッチング電源ICとともに、AC-DC充電アダプタに集積する。ChiPhyは、Quick Charge 2.0に対応したモバイル機器からUSBケーブルを介して送られるコマンドを検知し、アダプタの出力電圧を調整して、モバイル機器のバッテリに送る電力を制御する。そのため、効率的な充電が可能になるという。なお、CHY100はQuick Charge 2.0に対応していないことも検知する。その場合は電圧を上げないので、故障などの不具合は発生しないとしている。
*)クアルコムは、Quick Charge 2.0を発表する直前の2013年2月14日に、「Quick Charge 1.0」について明らかにしている。Quick Chargeは、もともとは、クアルコムが2012年6月に買収した、プログラマブル電源ICを手掛ける米Summit Microelectronicsの技術である。2013年2月14日の発表の時点で、Snapdragonを搭載した70種類以上のモバイル機器に既に実装されていた。
Rogerson氏によれば、今回の提携はクアルコム側から申し入れがあったという。同氏は、「以前よりモバイル機器市場を重要視してきた当社にとって、クアルコムとの提携は1つの転機になるだろう。クアルコムはスマートフォン市場でシェアを伸ばし続けている。Snapdragonの搭載が進むほど、当社はChiPhyファミリをもって同市場での地位を向上することができる。また、Quick Charge自体はSnapdragonに搭載されている機能だが、理論的には、USBを使って充電する機器ならどんな物にでも使える。当社としては、USBで充電する機器に幅広く対応できるよう、製品ラインアップをそろえていきたい」と述べる。
クアルコムとの提携とともに、Power Integrationsの製品の用途拡大に貢献したのが、CT-Concept Technologieの買収だ。Power Integrationsは2012年5月に、IGBTドライバICを手掛けるスイスのCT-Concept Technologieを1億5000万米ドルで買収している。CT-Concept TechnologieのIGBTドライバICは、発電所や鉄道システムなど、高い電圧を必要とする用途向けに強い。Rogerson氏は、「買収によって、それまでは低電圧向けのみだった製品ラインアップが、高電圧まで一気に拡張することになった」と説明する。
同氏が「CT-Concept Technologieの買収は、用途拡大とともに売上高の面でもよい結果をもたらした」と説明するように、Power Integrationsの売上高は、2011年に2億9800万米ドル、2012年は3億500万米ドル、2013年は3億4700万米ドルと、堅調に伸びている。
今後の具体的な戦略は「明かせない」(Rogerson氏)としたものの、「日本を含むアジアは重要な市場だ。現在、売り上げが特に大きいのは中国、台湾、韓国だが、東日本大震災以降、低消費電力の点からLEDの需要が高まっている日本が、LEDドライバICを提供する当社にとって大事な市場であることは常に認識している」と語った。
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