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「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論とは、“愛”である「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論 ―総括編―(2/2 ページ)

» 2014年03月25日 09時00分 公開
[江端智一,EE Times Japan]
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 さて、私はこれまで、数多くの「英語に愛されないエンジニア」の新行動論を展開してきましたが、その全てにおいてバックボーンとなってきた基本コンセプトは「愛」でした。

 ただし、「英語以外の愛」ですが。

 エンジニアは、技術という手段によって、人間愛、動物愛、自然愛などの枠を軽く超越し、回路、装置、ソフトウェア、システムの有体物のみならず、デザイン、アイデア、特許などの無体物まで愛することができます。まさに、エンジニアは万物への愛の具現者といっても過言ではありません。

 「愛」という言葉が抽象的過ぎるというのであれば、「誠実」「信頼」と置き換えてもよいかもしれません。もっと具体的に表現するのであれば、「泥くさくて、汗くさくて、涙ぐまして、しつこくて、みっともない『一生懸命』」です。

 このような「見苦しい一生懸命」は、事業的にはもちろん、製品の品質にも、製造コストにも、何にも関係がない、ただの「一生懸命」なのですが、―― これは本当に不思議なことなのですが ―― こうした「見苦しい一生懸命」は、かなり高い確率で、それなりの成果として形に残ることが多いようです(私は、この因果関係を数値などで示す自信があります)。

 しかし、その理由は正直なところ分かりません。

 それでも、「根性論とは違うな」と感じています。私は、「根性」なる、非論理的で、観念的で、前世代的な観念が大嫌いですし、そもそも私は、会社の利益や自分のキャリアのために、今回の連載に記載してきたような、見苦しい振る舞いを続けてきたわけではありません。

 私は単に、与えられたミッション(私の力量をはるかに超えた、難しくて面倒くさいミッション)を、泣きべそをかきながら遂行し続けてきただけです。

 具体的に言うとですね、「くっそー! こんなところで負けるもんかあぁぁぁ――!」という力強い前向きな一生懸命ではなく、「うえーん! なんとか早く終わって、日本に帰りたいよおぉぉ〜」という、負け犬の一生懸命です。

 こんな負け犬の日々でも、―― 結局、なんとかなってきたのです。


 そんなわけで、これは仮説の域を出ませんが、この連載の総括として、

たとえ私たちエンジニアが英語に愛されなくても、他の愛を発動させることで、その埋め合わせはできる

ということは言えるのではないかと、思っています。



 総括はここまでとして、ここからは、ちょっと思い出話と愚痴にお付き合いください。

・「江端さんのコラムのおかげで、海外が少し怖くなくなりました」

 このようなコメントをもらうと、大変うれしいです。

 今回の連載を開始するに当たり、EE Times Japanの編集担当者の方とコンセプトを詰めた際、「若いエンジニア」「元気を与える」「英語」という内容で連載を開始することになりました。その目的を達成できたとすれば、本当にうれしいのです。

・「TOEIC試験の直前に、江端さんの連載を全部読みました」

 このようなコメントをもらうと、大変困惑します。

 それでTOEICスコアが上がるなら、執筆者である私のTOEICスコアは満点を超えていてもよいと思います。本連載の使用方法を再検討されることを、強くお勧めします。

実践編(第5回)に入るまで、4カ月以上もかかったことについて

 「著者の江端は、実はネタもないくせに、大風呂敷を広げただけじゃないのか」という誹謗(ひぼう)中傷にさらされて、私は大変傷つきました。私を傷つけた人は、深く反省してください。

・反論がほとんどなかったことについて

 連載第1回で「英語教育の業界の方を激怒させるであろうことは、今の段階で十分予想できます」と書いた後、ずっと身構えていたのですが、どこからも反論が来ませんでした。

 「なぜだろう?」と、今でも思っています。

 『しょせんは、英語スキルに乏しいエンジニアの戯言(たわごと)だ』と、軽くスルーされてしまったのかもしれません。実際、番外編「“Japanese English”という発想(後編)」この回のリリース後に文部科学省にも電子メールでインタビューを申し入れたのですが、まだお返事をいただけていないです。

 TOEICを主催している法人からも、正式に抗議が来ることを期待していたんですけど(関連記事:TOEICを斬る(前編) 〜悪魔のような試験は、誰が生み出したのか〜)、何の反応もないところを見ると、「お前(江端)が考えた批判程度は、折り込み済みだよ」と、軽くいなされている感があります。

 いずれにしても、

 ―― 「英語を使う」為の勉強ではなく、「試験や入試やスコア」の為の英語の勉強が、まだまだ日本では続いていくのか

と思うと、正直ウンザリします。


 最後に謝辞を申し上げます。

 私のホームページのコラムを毎日購読していただき、今回の連載にお声をかけてくださった、元アイティメディア株式会社 EE Times Japan編集担当の前川慎光さまには、「若いエンジニア」「元気を与える」「英語」というコンセプトとともに、「「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論」という、素晴らしい題目 ―― この題目がなければ、ここまで連載を続けられなかっただろうと思う ―― をいただきました。人生最初の連載という、稀有(けう)な機会を私に与えてくださった前川さまに、心からの感謝を申し上げます。

 前川さまの後任として、「2ページ程度でお願いします」という依頼に対して、13ページ(図表あり)で納品する私の原稿の、膨大な誤記や不要に難しい漢字と格闘して、大変な編集・校正作業と、見事なレイアウトとまばゆいばかりの ―― え、これが、ワ・タ・シ(の原稿)? ―― と私に思わせる程の美しいWebページを作り続けていただいた、村尾麻悠子さまに感謝申し上げます。

 また、空気を読まない極端な表現で、英語出版業界全部を敵に回しかねない私の過激な原稿を、ほとんど「そのまま」通していただいた、EE Times Japan編集部の皆さまのその度量の大きさに、心からの敬意と感謝と御礼を申し上げます。

 私の原稿の誤記チェックと、「たった一人の世論」として、私の原稿に対して「長い」「分からん」「難しい」という簡易な表現でダメ出しをしてくれた、嫁さんに感謝します。

 例えば、第3回「エンジニアが英語を放棄できない「重大で深刻な事情」 」の市場分析結果では、嫁さんの「分からん」のひと言で、大量のグラフや表を追加することになりました。結果として、その締め切り直前の前川さまの作業に多大なインパクトを与えたことを、この機会に白状しておきます。

 毎回、素晴らしいイラストを作成して提供してくれた、長女(4月から高校生)に感謝します。私の思いもよらないコンセプトを絵画で表現するその力量を、父親として心から誇りに思っております。

 ただ、締め切り日をスコーンと忘れることとか、納期を盾にギャラの上乗せを要求するとか、そういうことは、大人になってから会社とやってください。父親と労使紛争をするのはやめましょう。

 それと、ドローツールの使い方の勉強など、今後は自発的にやっていただけることを期待しています。私が「ペイントツールSAI」や「Pixia」を使うわけではないのですから(結果として、私も使えるようになってしまいましたが)。

 その他、ここでは紹介できない、名前を出せない、そもそも「存在してはならないはず」の皆さまに感謝します。本件については、あまり深く突っ込まないでください。その方も私も、大変困りますので。

 最後に、2年間にわたり本連載にお付き合いいただいた、多くの読者の皆さまに感謝申し上げます。

 でも、「面白い」「楽しい」「愉快だ」「もっと続けてくれ」という意見を、もっとたくさん私に送っていただいてもよかったんですよ。皆さん、大変奥ゆかしい方のようでした。

 では、これで、本当に最後です。

 本連載第1回の、このセリフでトリを飾りたいと思います。


 この連載が対象としない方は以下の通りです。
「英語で困ったことは一度もない」、「英会話は日本人の常識だ」と考えている人。

私はあなたが嫌いです。


2014年3月25日
自宅にて
江端智一



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Profile

江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



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