デジタル機器の利便性も上がる。例えば薄型テレビ受像機はOSを内蔵し、ソフトウェアを多用するため電源切断状態から、全機能が利用できるようになるまで数十秒を要する機種も存在する。ほとんどの製品ではわずかな電力を常に消費して、待機状態を取る。不揮発メモリを使えば、各種デジタル機器が電源投入と同時に利用できるようになり、電源切断手順も単純になる。
システムLSIに次世代不揮発メモリを採用するもう1つの利点は、設計の自由度が増すからだ。例えば、現在のマイコンには、複数のメモリ素子が集積されている。高速なワークメモリにSRAM、不揮発で高速に書き換えでき、プログラムのROM内実行も可能なNOR型、ストレージメモリとしてNAND型、フォントなど書き換えを要しない用途にマスクROMである。それぞれの容量はLSI設計時に固定される。これらを全て1種類の次世代不揮発メモリで置き換えれば、システムLSIを用いる機器メーカーにとって、各用途のメモリ容量を自由に配分できるというメリットがある。
ただし、システムLSIメーカーごとに想定する用途が違うため、採用するメモリの種類も異なる。例えばロームはプロセッサの不揮発化をまず実現するため、素子の分極を利用するFeRAM(Ferroelectric RAM)を選んだ。NECはSRAMの置換も狙うため、高速アクセスとほぼ無制限(1015回)の書き換え回数が実現できるMRAMを用いる。ニューモニクスは現在NOR型フラッシュメモリを中心に携帯電話機での実績があるため、NOR型と似た使い方ができるPRAMを選んだ。
さらに異なる原理に基づく開発を進める動きもある。現在のLSIではロジック回路とメモリ回路は別々のチップにするか、同じチップに配置する場合でも異なる製造プロセスを用いる。東北大学電気通信研究所では、この2つの要素を1つの回路に合わせ込むロジックインメモリ・アーキテクチャを、不揮発メモリを用いて実現しようとしている(図4)†1)。既存のEDAツールなどが一切利用できないため、特定の用途を実現する回路ブロックを設計する手法自体を作り上げる必要があるが、「既存の回路の集積化や処理性能向上の限界を乗り越える手法になり得る。まず、CMOSで設計した論理回路の直上に記憶回路を設計できるため、配置面積が減る。次にメモリ回路の値を検出する電流をそのまま使って演算ができるため、トランジスタ数が減る。つまり省電力だけでなく、集積化にも役立つ」(同研究所ナノ・スピン実験施設の施設長を務める大野英男氏)。
後編では、PRAMやMRAM、ReRAMなど各種の不揮発メモリの技術開発動向を紹介する。
†1) 畑陽一郎、「磁気トンネル接合素子を使い回路を不揮発化、演算・記憶機能を一体に」、EE Times Japan、2008年10月号、no. 40, pp.22-23.
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