第8回において、“できるエンジニアの行動特性10項目”を示しましたが、最近、電機、自動車、機械などの大手メーカーの開発部門の部課長から聞いた話に、これらの10項目とかなり共通するところがあったので、皆さんにご紹介します※1)。
「技術バカでは食っていけない」――。
彼らは共通してこう言います。そして、「もっとエンジニア自らが動かないとダメだ」と。
営業やマーケティングからの情報を待っているのではなく、エンジニア自らが動いて、情報を取ってくる。顧客訪問も行い、生の声を聞いて開発にフィードバックする。こうしないとダメだということです。当たり前と言えば当たり前ですが、例えば、開発方針の決定から、出来上がった製品の評価に至るまでに(第12回の図2)、いくつもの担当部門を経ていては、時間ばかりかかってしまいます。結果、競合他社に負けて、市場の変化から置いていかれることになるでしょう。
ただし、確かに技術バカではいけないけれど、「ここだけは絶対に負けない」という専門領域は必要です。それに加えて、中堅以上のエンジニアは常に大規模なプロジェクトを行っているようなものなので、マネジメント、組織、プロジェクトの仕組み作りに長けていないと現場が回りません。
つまり、スペシャリストでありながら、ゼネラリストでもなければ通用しないということです。図1のような「スペシャリスト or ゼネラリスト」の図式はもはや成り立たず、これから目指すべきは、「スペシャリスト and ゼネラリスト」ということになります。そして、これこそが「プロフェッショナル」なエンジニアだといえるでしょう。
(※1)さらに、「部門を超えて互いの仕事を知る」ことも大事だと言っていました。これは本連載でも何度もお伝えしてきましたね。どんな人が製造をしているのか、分からないことがあったら誰に聞けば良いのか(know who)、製造部門に以心伝心のごとく設計の意図が伝わるようになっているか、誰もが納得した腹に落ちたコンセプトを練れたのか。そのためのコミュニケーションがますます重要になっているそうです。
では、「プロフェッショナル」の位置付けを見るために、「スペシャリスト」「ゼネラリスト」「プロフェッショナル」、そしてプロフェッショナルの反対である「アマチュア」を、4象限で表してみます。
若手エンジニアは「アマチュア」といえるでしょう。
専門分野の知識を増やし、経験を重ねると、技術的な専門性が高い「スペシャリスト」に近づきます。一方、関連する部門の業務知識、マネジメントなど幅広く身に付けることで各スキルのバランスに優れた「ゼネラリスト」に近づきます。
そして、これらのどちらか1つに偏るのではなく、両方の性質をバランスよく備えることで、「プロフェッショナル」になります。
田中課長が頭の中で描いているエンジニアのキャリアデザインは、スペシャリストでありゼネラリストでもある「プロフェッショナル」を目指すことなのかもしれません。
今回が今年最後の記事となります。次回は来年になります。良いお年をお迎えください。また来年、お会いしましょう。
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。
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