NECは3年ほど前から「組み込みソリューション事業」の展開を強化し、年率20%増のハイペースでビジネス規模を拡大してきた。急成長を遂げるNEC組み込みソリューションビジネスの概況や今後の展望について聞いた。
NECは、新ビジネスとして「組み込みソリューションビジネス」の展開を強めている。NECグループ内に点在する組み込み分野で応用が可能な技術/IPを統合し、より価値の高いソリューションとして提供するビジネスモデルを目指している。NEC新事業推進本部本部長代理で組み込みソリューションビジネスを統括する石川有知氏に、組み込みソリューション事業の概況や今後の展望について聞いた。
EE Times Japan(以下、EETJ) 近年、なぜ、組み込みシステムビジネスを強化されているのでしょうか。
石川有知氏 NECは近年、事業転換を図っている。ご存じのように、スマートフォン事業から撤退し、個人向けPCもレノボとの合弁事業に切り替えた。その一方で、社会インフラやB to B事業へのシフトを積極的に進めている。
こうした事業転換を行う上で成長を狙うには、従来のビジネスに新たなビジネスを加える必要があり、NECではビッグデータやM2Mといった新たなビジネスを立ち上げている。その一環として、NECがこれまで培った資産、技術を生かすことのできる新ビジネスとして、組み込みソリューションビジネスの強化を行っている。
EETJ NECグループとしては、かなり以前から組み込みシステムビジネスを展開されている中で、なぜ「新ビジネス」と位置付けているのですか。
石川氏 NECグループとして、モバイル端末からOA機器、サーバ、ネットワーク機器といったさまざまなハードを開発、生産し、それらに搭載するソフトウェアや関連するサービス基盤も手掛けるなどさまざまな組み込みシステム関連の製品、サービスを提供してきた。現在、「新ビジネス」として強化しているのは、これらの豊富な組み込み関連製品/サービスをさらに磨き上げながら統合してソリューションを構築、提供すること。全社/グループ横断機能を持ちながら、“組み込みソリューション”の構築、提供を強化している。
EETJ 具体的な“組み込みソリューション”とはどのようなものですか。
石川氏 例えば、2012年あたりから提供を開始している受託開発製造(ODM)ビジネスがあるだろう。
NECはこれまでも、FAXやプリンタといったOA機器や産業用制御機器のEMS(受託製造サービス)を手掛けてきた。同時に、さまざまな製品の受託開発サービスも提供してきた。これらを統合し、提供するのが、設計開発から製造までを一貫して提供するODMサービスだ。
こうしたODMサービスを提供するベンダーは多いが、われわれのODMサービスは、製品開発の上流からサポートできる点にある。具体的な仕様に落とし込む前の、コンセプト段階からコンサルティングを交えたサポートが提供できる。加えて、製造面でも事業転換の実施により、余力が生まれた各生産拠点を活用した製造が行える。生産拠点は、高密度実装を得意とする工場や極めて高い品質の製造を得意とする工場など、さまざまな個性を持つ工場が豊富にあり、あらゆるニーズに応じた生産体制を提供できる点にも特徴がある。さらに、生産管理などの先端のITソリューションもNECグループ内に有している。
これらを統合して一括提供することで、他品種少量生産の製品でも、過剰在庫を抱えることなく、Just in Timeで高品質な製品を納品できるサービスとして多くの引き合いを得ている。今後、4〜5年でビジネス規模を数倍に引き上げられる見通しであり、組み込みソリューションビジネスの1つの柱になると期待している。
EETJ ODM以外のソリューションとしては、どのようなものがありますか。
石川氏 成長が期待される用途分野別にソリューションを構築していく。現在、構築、構築中のソリューションとしては「エネルギー関連」や「産業機器」「社会インフラ」といった用途分野向けのものだ。いずれも、NECがこれまで培った技術/IPをベースにソリューションを構築している。
EETJ 組み込みソリューションビジネスでベースにする技術/IPとはどのようなものですか。
石川氏 さまざまなものがあるが、特に強みのある技術として多くのソリューションに展開していこうとしているのが、画像/音声の処理/認識技術だ。
例えば、2013年11月に開催された「Embedded Technology 2013/組込み総合技術展(ET2013)」で、ETアワード・先端テクノロジー賞を受賞した低負荷・高圧縮画像コーデック「StarPixel」がある。このコーデックは、人工衛星向けに開発された技術で、高圧縮率ながらデータのエンコード、デコードを高速に行える特長を持つ。大量の画像データでも比較的小さなストレージに高速に蓄積でき、製造ラインなどの画像検査工程のスピードアップなどに貢献できる。製造ライン以外にも、さまざまな分野で画像検査システムが存在しており、応用範囲は広いと考えている。
EETJ M2M向けの組み込みモジュールも製品化されています。
石川氏 M2Mも幅広いアプリケーションでの応用が見込まれ、当然、M2Mを使ったソリューションの提案も積極的に行っている。2012年に製品化した920MHz帯対応無線モジュールなどはHEMS(家庭内エネルギー管理システム)などでの採用が拡大している。
無線モジュールも単体としての販売だけでなく、モジュールを使ったシステムとしてのソリューション販売を主力にしていく。M2Mでは、センサーからデータを収集する以上に、どのように集めたデータを利活用していくかが重要になる。NECでは、センサー端末だけでなく、クラウドサービスまでを含めた提供が可能であり、一歩とは言えないかもしれないが、半歩先に進んだM2Mソリューションを提供できる体制がある。
EETJ 今後の組み込みソリューションビジネスの展望をお聞かせください。
石川氏 組み込みソリューションビジネスをより本格的に立ち上げた3年ほど前から、これまで年率20%増程度のスピードでビジネス規模を広げることができた。今後についても、ODMビジネスなどは一定の成長が見込める状況にあり、徐々に整いつつある各ソリューションの拡販が進む見通し。事業規模がより大きくなる中で、これまでの年率20%増という成長速度を維持していくことは難しくなるが、可能な限り現在の成長速度に近い速度で成長を続けたいと考えている。
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