「一皮むける経験をしないと、佐々木君がダメになる」。こう考えた田中課長は、次期新製品のメインボードを開発するチームの主力メンバーに、佐々木さんを起用しました。プロジェクトリーダーは課長ですが、佐々木さん1人で、ソフトウェア開発課や外注ともやり取りをしながら開発を進めなければなりません。
佐々木君、期待してるよ。ぜひ頑張ってくれ。
……課長、何で僕なんですか? この1年、先輩たちの雑用ばかりで、開発なんて無理です。
いい経験になるし、自分の成長にもつながるぞ!
成長って何ですか? 僕は何も教わってないし、失敗して責任を取らされることは嫌なんです。
(何だって!? 昔なら、入社1、2年目で新製品開発を任されたら大喜びしたのに……。なぜ、やる前からできないと言うんだ? 教わってない? 自分から聞いて、勉強するのが社会人だろう。)
まぁ、分かった。一晩考えてみてくれ。
……返事はメールでいいですか?
(メールで返事!? 何でメールを使うんだ。まったく、佐々木君の反応には、いちいち驚かされる。)
どうしてメールで返事をするんだ。大事なことは口頭で伝えるものだろう。
「教わっていないからできない」、「失敗して責任だけ取らされるのは嫌」と、失敗を極度に恐れる佐々木さん。
これは佐々木さんに限ったことではなく、昨今のゆとり世代の若手全般に共通して見られる傾向でもあります。“成長”という言葉にとても敏感ですが、自分自身のプラスになることが明確になるまで動こうとはしません。大切なこともメールなどで済ませるコミュニケーションを取ります。
さて、佐々木さんは今後、どのように成長を遂げるのでしょうか? 次回は「名ばかりのOJT」と称し、開発部門のOJT、学習と勉強について、お話します。
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。
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