企業を取り巻く環境の変化で手が回らない!
第4回で詳しくお話したとおり、企業のグローバル化が加速しているものの、日本国内での経済成長は鈍化し市場は飽和しています。メーカーは製品の差異化を図るために必要以上に高機能を追及した結果、製品は複雑化し、開発コストが膨らんで開発期間は長期化しています。一方で、価格以外には大きな違いが見当たらないコモディティ化も加速し、コスト面では台湾、韓国にもはや太刀打ちできません。
会社は経営の効率化を余儀なくされています。かつては“聖域”と言われていた開発部門も例外なくコスト削減の対象となり、上司である部課長クラスは、管理業務が増えるばかりです。自分の仕事に追われて余裕がまったくなくなっており、とても部下の育成や自発性の促進にまで手が回りません。
コミュニケーション不足〜エンジニアのタコツボ化〜
ハードウェア/ソフトウェアの開発全般に言えることですが、製品が複雑化することによって、開発担当者は自分の業務をこなすだけで精一杯になります。その結果、図面や仕様書といった、アウトプットが出てくるまでの途中プロセスは、他者から見るとブラックボックス化しています。極端なことを言えば、隣に座っている同僚がどんな開発を行っているかさえ分からないような状況です。
開発部門の中でも、時間とコストに追われるあまり、「自分さえ、自部門さえ良ければいい」というあしき風潮が生まれています。それにもかかわらず、仕事はそれなりに進んでしまうという怖い現実があり、各担当者が個別に設計したものを統合する段階になってから、いろいろと問題が噴出するといったケースも頻発しています。
上司と部下の間だけでなく、担当者同士でもコミュニケーションが不足しており、個々のエンジニアが孤立してしまう“タコツボ化”の弊害が現れているのです。
一方で、若手を取り巻く環境は、ここ何年も厳しい状態が続いています。就職活動の段階で息切れしてしまうことも少なくありません。これが、主体性/自発性を持ちにくい原因の1つになっています。暗い話題やニュースばかりを聞く中で、夢や希望を持てと言うのも酷な話でしょう。
さて、若手がバッターボックスに立てない原因が、上司にあるのか、それとも若手にあるのかについてですが、「そのどちらでもない」というのが筆者の見解です。「社会全体が生み出した構造的課題」と「企業の組織マネジメントの課題」であると考えています。後者については、本連載の少し先のエピソードで、詳しくお話する予定です。
製造業に限らず、日本の企業全体が、このような課題を抱えています。
それでも、中には、うまく若手のモチベーションをアップさせて“できるエンジニア”の育成に取り組み、成果を発揮している企業があります。中心となって取り組んでいるのは、各企業の部課長クラス。まさしく第1回で述べた「新人類世代」と「バブル世代」のエンジニアたちです。こうしたベテランは、若手の頃には“できるエンジニア”であり、今は第6回で述べたような“トップエンジニア”になっています。
20年ほどの時代差があっても、所属する企業や開発している製品が異なっても、“できるエンジニア”と呼ばれる人たちの行動には、ある共通点がありました。
今回は理屈っぽいことが多くなりましたが、次回は、当初予定していた「できるエンジニアの行動」についてお話したいと思います。お楽しみに!
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。
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