それではいよいよ、前回までに説明したnチャネルを使った回路と、今回説明したpチャネルを使った回路を合体させます。こうすることで、電源側にもGND側にも、出力電圧をきちんと広げられるオペアンプを構成できます。
合体させたオペアンプを図7に示しました。今まで使ってきた図1と図2に記載したMOSFETの番号はそのままに、番号の次に識別子として「p」と「n」を付けました。図1と図2の構成と見比べてみてください。
2つの回路を合体させるに当たり、pチャネルとnチャネルのカレントミラーをどのような手法でつなぎ合わせるかがポイントなのですが、今回は抵抗R3とR4を使う最も簡単な手法を採用しました。つなぎ合わせる部分には、非常に多くのノウハウがあります。また別の機会に、紹介したいと思います。
それでは早速、2つの回路を合体させたオペアンプの動作を、いつものボルテージフォロアで確認してみましょう。今度は、電源側とGND側の両方に負荷を接続しました(図8)。
図9にDC解析の結果をまとめました。GND電圧付近と電源電圧付近のいずれも、入力電圧と出力電圧のずれは発生していません。
GND電圧付近になると、nチャネルの差動対はオフ状態になりますが、pチャネルの差動対が動作します。一方の電源電圧付近になると、pチャネルの差動対はオフ状態になりますが、nチャネルの差動対がカバーします。当初の目的通り、GNDから電源電圧の全領域できちんと動作するボルテージフォロアを設計することができました。
CMOS回路の特徴である相補性をうまく活用し、nチャネルとpチャネルがお互いにカバーするように回路を設計することで、普通の回路では実現が難しい性能を引き出せます。この点が、CMOS回路が発展し、普及してきた1つの要因ではないかと思います。
これでオペアンプの設計は終了です……と言いたいところですが、実際に使うにはまだまだ改良が必要です。例えば、消費電力の様子を確認してみましょう(図10)。
図10を見ると、電源から流れ込んだ電流のすべてが出力端子から流れ出ているわけではなさそうです。例えば、出力電圧が2.5Vのときは電源から6mAの電流が流れ出ていますが、出力端子にはほとんど電流が流れていません。ほぼ0mAです。6mAの電流はどこに流れてしまったのかというと、GND端子から流れ出てしまっています。つまり、オペアンプを電源からGNDへただ通過している電流があるということです。これは、もったいないことです。実際に製品化されているオペアンプでは、消費電力の問題を解決するために、さまざまな工夫が盛り込まれていることを付記しておきます。
次回は、オペアンプから離れて別の話題に移りましょう。次回は、「BGR(Band Gap Reference)」と呼ぶ回路を紹介します。
美齊津摂夫(みさいず せつお)
1986年に大手の通信系ハードウエア開発会社に入社し、光通信向けモジュールの開発に携わる。2004年に、ディー・クルー・テクノロジーズに入社。現在は、同社の常務取締役CTO(最高技術責任者)兼プラットフォーム開発統括部長を務めている。「大学では電気工学科に所属していたのですが、学生のときにはアナログ回路の勉強を避けていました。ですから、トランジスタや電界効果トランジスタ(FET)を使ったアナログ回路の世界には、社会人になってから出会ったといっていいと思います。なぜかアナログ回路の魅力に取りつかれ、23年目になりました」。
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