ただ、一般的なプリント配線板を置き換えることは、不可能だ。抵抗値が大きいことに加え、主に銀の粒子が酸化することに起因する経時劣化が避けられないためだ。ラミネート加工した場合で1年程度、ラミネート加工していない場合で半年程度が、通常使用できる目安だ。「あくまで、使い捨ての使用が前提。もっとも、紙自体が持たないだろう」と、一般的なプリント板より劣る耐久性に関しては全く意に介していない。
「プリント基板の置き換えを狙っている訳ではなく、この導電性インクでしかできない全く新しい市場を形成したい」という。その1つが、会社設立時より最初の有望市場と見込んでいる教育現場。「電気の基本を理解するのに、導電性マーカーはとても分かりやすいツール」という。
もう1つが、大面積の回路だ。「これまでA0サイズなどの大面積基板の製造は、ほぼ不可能だった領域。大判プリンタを使えば、どんな大きさの回路も作成可能。既に、静電容量式のタッチセンサー回路を仕込んだポスター広告などの応用で問い合わせもある。フレキシブル基板に至っては、通常の基板よりも大面積化が難しかったため、このインクを用いて、ロボットの皮膚センサーなどを作ることも可能になるだろう」とする。なお、AgICでは、半透明のプラスチックの表面に写真用光沢加工と同じ表面処理を行ったPETフィルムも開発、販売しフレキシブル回路用途のニーズにも対応する。
事業規模について清水氏は、「初年度である2014年は、3000万円程度の売上高を見込んでいる。既に先行サンプル品や先行受注などで1000万円程度を売り上げており見込み通り、順調に推移している。2015年は1億円、その後もその2〜3倍と、スタートアップ企業らしい成長を実現していきたい」としている。
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