しかし、ここで一つの疑問が生じます。
世界各国(の政府)が、国際間の取り決め(京都議定書)を作ってしまう程、環境問題に対して真剣に取り組んでいるのは、変なのです。
私が調べた限り、私の回りにいる人間で、CO2による温室効果について、きちんと説明できた人間は、大学で地球科学を専攻していた研究所の後輩、ただ一人だけでした。
残りの人間は、根拠のない断片的な知識、あやしげな国際陰謀説、感情論を展開するばかりで、全く参考になりませんでした。ですから、多くの日本人(私を除く)が、地球環境に関して真摯かつ真剣に理性的に考え続けている ―― とは、思えないのです。
だから、わが国の政府が、地球温暖化問題に対してもっといい加減な政策を取っても、大した問題にはならないと思うのです。
いろいろと考えてみたのですが、地球温暖化問題は、それが「正しい」からでも「地球にやさしくするため」でもなく、単に「各国政府がラクをしたいから」と考えると、結構簡単に理解できそうです。
例えば、
つまり、これまで人類がせっせと積み上げてきた膨大なサバイバルのノウハウを、全部ドブに捨てることになるかもしれないのです。
そして、これらの、人類が体験したことがない新しい問題に立ち向かうことは、
―― 滅茶苦茶に面倒くさい
と思うのです。
私たち人類は、基本的に「変化すること」が好きではありません。既存のやり方を変えることに対して臆病です。特に、災厄を伴うものであれば「立ち向かう」のではなく、「どうか静かにしていて下さい」と神様にお願いをしているくらいです(地鎮祭など)。
ティーンの頃は、クラス替えや席替えですら憂鬱(ゆううつ)でしたし、社会人になっても、自分の部署の安泰に奔走しています。
誰にとっても、どんなささいなことでも、「変化に対応すること」は面倒くさいものです。
もちろん、「CO2の削減」とか「ゴミの分別」は面倒くさいです。それでも、未知の脅威に対応することを考えれば、まだマシです。
つまり、地球温暖化対策とは、「変化を望まない私たち人類」にとって、最小のコストで行える最適戦略と考えることができると思います。
しかし、最小のコストといっても、「CO2の削減」一つをとっても、そんなに簡単なものではありません。
わが国は、2009年に、当時の首相が、国連本部で開かれた国連気候変動サミットで「2020年までに二酸化炭素25%削減する」旨の発言を国際公約として発言してしまいました(2012年、政府が撤回)。
CO2というのは、簡単に言えば、車とか電気とかを作り出す生産工場の「ウン○」のようなものです。これまで通り、原材料を食べて、同じ量の製品の生産を続けているところに、突然「ウン○」の量だけ1/4減らせと言われたら、その工場はたちまち病気になってしまうでしょう(ちなみに、原子力発電だけはこのCO2の「ウン○」を全く出しません)。
これらの数字については、この連載の中で「回す」予定としております。
さて、環境問題を数字で回す第1回の前半はここまでにしたいと思います。
今回は、地球温暖化問題に対して、「今一つ、本気になれない私」と「真面目に取り組んでいる(ように見える)各国政府」の間で生じている温度差について考察してみました。
後半では、「地球温暖化」という、全地球規模の問題に対して、人類が「本当に何とかできる」ものなのかを、過去の環境問題と対比しながら考えてみたいと思います(本連載で、具体的に数字が回り出すのは、2回目以降になると思います。ご了承ください)。
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江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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