SSD製品がJESD218Aに準じてエンタープライズ用とクライアント用に区分けされているかというと、実際はそうでもない。SSDベンダーごとに違いがある。総じてエンタープライズ用SSDは、JESD218Aに準じた仕様を記載していることが多い。しかしクライアント用SSDでは、JESD218Aはあまり浸透していないようだ。
クライアント用SSDが製品カタログやデータ・シートの信頼性仕様にJESD218Aを表記しない理由の一つは、補足規格であるJESD219の不十分さだ。この規格はテストにおける負荷を記述しているのだが、今のところ、エンタープライズ用の負荷を記述しているだけで、クライアント用の負荷の記述がない。このため、SSDベンダーとしては、JESD219に記述してあるエンタープライズ用の負荷を自社のクライアント用SSDに適用するか、あるいは、独自にテスト仕様を定めるか、のどちらかを選ぶことになる。
もう一つの理由に、クライアント用といっても用途の幅が広いことがある。まず、企業ユーザーのパソコン(PC)と、家庭ユーザーのPCでは、使用環境がかなり違う。最近の企業向けクライアントPCはストレージの記憶容量があまり大きくない。家庭向けクライアントPCはビデオデータの記録などで容量の大きなストレージを内蔵する傾向が強い。また1日当たりの稼働時間は企業向けが長く、家庭向けが短い、と考えられている。これらの違いを考慮すると、クライアント用SSDでは、JESD218Aを利用する意義は大きいとは言えない。
クライアント用SSDの信頼性を検討するときに大きな問題なのは、信頼性が低いことではなく、信頼性に関する情報自体があまり開示されていないことだ。MTTF(またはMTBF)と保証寿命はほとんどの製品が明記している。しかしTBWとDWPD、UBERはデータ・シートに掲載していないことが多い。調べた範囲では、こういった仕様を詳しく掲載していたのはSeagateの「600 SSD」だけだった。
ただし、信頼性に関する情報の不足はSSDに限ったことではない。HDDでもクライアント用製品の信頼性に関する情報はきわめて乏しい。製品カタログとデータ・シートを調べた限りでは、クライアント用HDDで故障率を明示していた製品は一つもなかった。HDDの方が状況はむしろ悪いと言える。
福田 昭(ふくだ あきら)
フリーランスのテクノロジージャーナリスト/アナリスト。
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