前編ではまた、SSDに対するデータの書き込みを繰り返していくと、性能がほぼ一定の値、すなわち「定常状態」に至ると述べた。この「定常状態」における性能値は、ランダムな書き込みを繰り返したときと、シーケンシャルな書き込みを繰り返したときで違う。さらに、ランダムな書き込みの繰り返しによて定常状態となったSSDにシーケンシャルな書き込みを繰り返すと、一時的に性能が変動し、「遷移状態」に入る。そのまま書き込みを繰り返していくと、数時間の後に、定常状態へと落ち着く。もちろん、このときの性能値は、前の定常状態の値とは異なっている。
例えば、FOB状態からランダム書き込みを繰り返して定常状態になったSSDがあったとする。そのままランダム書き込みを繰り返し、ある時点からシーケンシャル書き込みの繰り返しに切り換えたとしよう。すると性能値は変化し、急速に低下した。そして1.5時間ほどで、定常状態に落ち着いた。
また逆に、FOB状態からシーケンシャル書き込みを繰り返して定常状態になったSSDがあったとする。そのままシーケンシャル書き込みを繰り返し、ある時点からランダム書き込みの繰り返しに切り換えたとしよう。すると性能値はいったん急上昇し、それから徐々に低下していく。この場合、定常状態に移行するまでに約10時間を要した。
これまで説明してきたように、FOB状態でベンチマークソフトを走らせることは、適切な性能評価には結びつかない。書き込みの繰り返しによってSSDを定常状態に移行させる必要がある。この処理を「プリコンディショニング」と呼ぶ。プリコンディショニングの内容を明示するとともに、定常状態でベンチマークテストを実行した結果を示すことで初めて、性能評価の目安となり得る。
ただしこれでもまだ、問題が残る。SSDに書き込まれたデータ群の物理アドレスがランダムに散らばっているのか、あるいはシーケンシャルに集まっているのかによっても、ベンチマーク値は違ってくるからだ。このデータの散らばり具合を「データエントロピー」と呼ぶ。完全にランダムにデータが分散しているとき、データエントロピーは最も高く、なおかつ、SSDの読み書き性能は低くなる。一方でデータが連続した連なりでまとまっていると、データエントロピーは最も低く、そしてSSDの読み書き性能は高くなる。
実際の利用状況は完全なランダムではなく、ある程度の規則性を保ってデータが書き込まれている。ランダムアクセスによるベンチマーク値とシーケンシャルアクセスのベンチマーク値の間に、実際の性能値は存在する。
福田 昭(ふくだ あきら)
フリーランスのテクノロジージャーナリスト/アナリスト。
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